不適切な重複処方の問題に一刻も早く解決策をつくるべき

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30代の女性が複数の医療機関から2000日分以上の睡眠薬の処方を受けていたというニュースがありました。

栃木の女性、亡母の国保も使う 3カ月で睡眠薬2053日分

このニュースを聞いて思うところは、こういうのは調べればもっと出てくるんでないの?という疑問です。


なぜこんなことが起こり得るのか

「こんなの、処方する医者の方がバカだろ」と言われる人もいるかもしれません。

しかし実際のところ、目の前の患者さんが他の病院からどんな薬をもらっているかについては、医者は患者さんの言うことを信じるしかありません。

例外として、救急車で運ばれたときに、病院の方で勝手に問い合わせてくれたという経験がある人もいるかもしれませんが、あくまで例外です。

そのような緊急を要する場合には、病院は患者さんがかかっている他の病院へ問い合わせをし、FAXなどで情報を取り寄せているわけです。

向こうの病院の医師は、緊急だ!ということで、外来などの仕事の手を止め、過去のカルテを引っ張り出して、これまでの経過を情報提供書に詳しく書き、飲んでいる薬の情報をFAXで送ることになります。

緊急を要さないようなすべての外来の患者さんにこれを行うと、おそらくほとんどすべての病院の外来は、医師の手が回らず、完全にストップすると思われます。

そして今のケースも、患者さんが普段かかっている病院名をきちんと教えてくれたから成り立つわけです。 結局のところ緊急であろうがなかろうが、患者さん自身が教えてくれた情報をもとに医師は処方をしているわけです。

亡くなった人の保険が使えるわけがない?

さらに問題だと思われる点について言ってしまいますと、患者さんが他の病院で亡くなった場合、こちらの病院に患者さんが亡くなったという情報は届きません。

こちらの病院から紹介状を書いて、紹介先で亡くなった場合は向こうの医師から連絡が入ったりすることもあります。 しかしほとんどの場合、家族が連絡してくれない限り、患者さんが亡くなったことを病院側は知るすべがありません。

また、処方に関してですが、本人がどうしても来院できないという場合、これまでも継続して通院しているケースであれば、医師が家族と対面して病状を確認した上で、本人不在で薬の処方ができてしまいます。

実際に現在の診療報酬の算定方法では、「投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与すべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できる。」となっています。

これはあくまで、どうしてもやむを得ない事情でたまたま病院に来れないけれど、薬をきらすのは命にかかわるから避けなくてはいけないという患者さんを想定した算定方法です。しかし、亡くなった方の薬をもらうのも、家族が嘘をつけばできてしまうということになります。


医者は患者を信じて処方しています

私の外来でも、眠れないんで睡眠薬だけもらえませんか?みたいな方はけっこう来ます。 こちらとしては処方することに問題はないのですが、他の病院で大量に睡眠薬をもらっている人がさらにもらいに来たりすることもあります。

ですので詳しく問診し、睡眠がどのように障害されているのか、合うと思われる薬はどれかなどを考えると同時に、今飲んでいる薬も確認します。

しかしこの際に、こちらとしては「今なにか他に薬を飲んでいますか?」という問いに、「他にはなにも飲んでいません」と言われたら、それを信じるほかありません。

実際のところ、患者さんを疑うわけではないですが、複数の医療機関を受診して、たくさんの睡眠薬を貯めこんでいる人って他にもいるのではないかと思います。

向精神薬に関して、現状ではどんな決まりがある?

厚生労働大臣が定める麻薬や向精神薬に関しては、1回に処方できる日数は、薬によって1回14日分、30日分、90日分が限度と決まっています。

例えば、レンドルミンという睡眠導入剤は、1回に30日分しか処方できません。 30日分を受け取ったら、1ヶ月後に薬がなくなってからでないと、次の処方を受け取ることはできません。

一つの病院の中であれば、カルテに処方の記録があるので、たとえ患者さんが処方を求めても、重複処方となるのですぐにわかります。

しかし現状では、異なる病院で患者さんの処方内容の情報を共有できていないので、異なる病院間での重複処方に、その場で医療者が気付くことができません。

その結果、どうしても薬がほしいという人は、わざと他の病院で、新たに薬を追加でもらうということが可能になってしまっています。

今回のケースではどうやって明らかになった?

今回のケースでは、県国民健康保険団体連合会が診療報酬明細書や調剤報酬明細書を審査し、亡くなった母親の国保が使われていたことからわかったようです。

そして実際に連絡を受けて調査をして、事態を明らかにしたのは栃木市です。

ニュースでは、「亡くなった親の保険証は市に返さなければならない。必要以上に薬の処方を受ける受診自体、市が七割を負担する国保財政を圧迫するため、市は女性を注意した。」とあり、今回の騒動の結果、市が女性を注意したのみのようです。

重複処方に関して、現在のシステムの問題点は?

「他人の保険証を使ったこと」と、国保財政を圧迫するから「不適切な重複処方を受けることは適切でない」、という2点が注意されたようですが、それ以外の点に問題がありすぎだと考えます。

まず、現行のシステムで、自分の保険だけを使っていたとしたら、このような複数医療機関の受診による不適切な処方を、きちんと拾い上げられるのか疑問です。

また、診療報酬明細書などを確認し、自治体が実際に調査を行うまでには数ヶ月の時間がかかるので、いずれにせよ処方時に不適切な重複処方を防ぐことは不可能です。

なにより問題なのは、現行のシステムでは、嘘をつけば複数の病院から大量の睡眠薬などをもらえてしまうということです。

複数の病院にまたがる重複処方を防ぐシステムが必要

重複処方を防ぐシステムというのは、現状のところどの病院でも自分の病院内でしか機能していないので、他の病院で受けた処方に対して自動的にチェックを入れるシステムはありません。

意図的なものでなくても、自分の飲んでいる薬をついうっかり医師に伝え忘れるということもあるはずで、医療の質自体を上げるためにも、そういったシステムを整備していくべきだと思います。

ちなみに、こんなニュースもあります。

4300人重複処方=向精神薬、生活保護受給者に-検査院

複数の医療機関から向精神薬を処方された生活保護受給者が1ヵ月間で約4300人おり、中には20ヶ所から処方を受けた人もいたとのこと。

つまり、世の中には、生活保護であれば医療費が無料になるということを利用し、複数の医療機関から転売目的で重複で薬をもらう人がいるわけです。

当直をやっていると、睡眠薬を大量に飲んだ人が救急車で運ばれてくることが多々ありますが、そもそもそういう薬が簡単に大量に手に入ってしまうのが問題です。

解決策としては、患者の処方情報を各病院で共有すればいいと思うのですが、そのような情報共有システムを作らないと、この問題は拡大していくばかりだと思います。

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まとめ

現状で、複数の医療機関にまたがる重複処方をチェックするシステムというものがありません。

普通に病院にかかっている人にとっても、他の病院からもらっている内服薬の伝え忘れもあるかもしれません。

また、過量服薬転売を目的とした不適切な重複処方を防ぐためにも、処方情報の病院間での共有システムの確立が望まれます。