診察室での会話|説明が下手な人にありがちな話し方を挙げてみる

自分の医師としての職業上、本当に多くの人と毎日会話していると思いますし、それによって感じることも多いです。
以前、診察室でいいたいことを伝えるためには、結論から話し出すことが大事という記事を書きました。
結論から話し出そう!|話がわかりやすい人はどうやって話している?
相手に話を伝えたいときに一番大切なことは、伝えたい大事なことをまず最初に言ってしまうことです。これは間違いありません。 「なんだ、ブログ名とは全然関係ない記事だな」と思われた方、ちょっと待っていただきたい。この話は診察室での会話にとって、とても大事な話なのです。
これは未だに日々の診療で思うことですし、話を聞きながらもっとうまく伝えられるのになぁと思うこともしばしばです。
今日はさらに思うこととして、話の分かりにくい人はなぜ話がわかりにくいのか、外来での経験上気づいた点について書いてみたいと思います。
「どれくらい前からですか?」に「けっこう前からです」と答える人がいる
病気のことを問診する上で、いつから症状があるのかという情報はとても重要です。
「その症状はどれくらい前からありますか?」と聞くと、「けっこう前からです」とか、「だいぶ前からです」とか答える人がいます。
残念ながら、これでは医師に対して何の情報も伝わっていません。 こちらとしては、「それでは数日前、数週間前、数ヶ月前でいうとどれくらいに当たりますか?」と聞きかえすことになります。
「けっこう」とか「だいぶ」などの言葉は、まったく客観性をもたず、診察室で自分のことを医師に説明する際に役に立ちません。
自分の相談したいことに関して、時間などの情報はなるべく具体的な数字を挙げるのが、相手にうまく伝えるコツです。
また、数字を使うのは時間に限らず、痛みの度合いを伝えるときなどでも有効なので、医療者はよく使います。
いままで経験した一番の痛みを10として、昨日は10段階で2~3くらいの痛み、今朝は8~9くらいまで痛かったけど、今は6~7くらいの痛み、のように言うと、伝えるのが難しいことも相手にうまく伝えられます。
「Yes」or「No」の質問に「Yes」or「No」で答えてくれない人がいる
問診で最終的には、医者の方からいくつかのポイントについて、「はい」「いいえ」で答えられるような二択の質問をしていきます。
しかし、この二択の質問に二択で答えてくれない人がいます。 例えば「今現在、他の病院から何か薬をもらって飲んでいますか?」と聞いた場合、医者側からすると、まず「はい、飲んでいます」、または「いいえ、飲んでいません」と答えてほしいところです。
しかし、例えばこれに対して「今現在、他の病院から何か薬をもらって飲んでいますか?」という問いに、「昔、薬を他の病院からもらっていて、あと薬局で買った薬も一時期使っていました」という答えが来ることがあります。これは一見答えになっているようで、問いの答えにはなっていません。
そのようなときには、医者は「それで今現在は他の病院から何か薬をもらって飲んでいるのですか?」と同じ質問を繰り返すことになります。
「Yes」or「No」の質問に対しては「Yes」or「No」の内容で答えた上で、そのあとに追加の情報を説明してくれる方が、聞いている方としてはわかりやすくなります。
初対面でも自分のことを分かってくれていると思っている人がいる
仮に初めて診察室で会う患者さんだったとしても、これまでの自分の病気について、医者が分かってくれていると思ってしまっている人がいます。
中には、「これまで何か病気がありますか?」と聞くと、「だから、~の病気で薬飲んでいるんですよ」とか、繰り返しを意味する接頭語がつく人がいるのが気になっています。
本当は全くの初対面なんですが、「だから、さっきも言ったけど」的な感じで話す人が多いのはなぜなんだろうと日々思います。
この理由の一つはおそらく、「問診票に書いた」から繰り返しになっているという意味なのかもしれません。 しかし医者からすると、問診票の内容を再度確認するのは大事なことなので、ご容赦いただきたいところです。
またそうではない場合、ほかの理由として、これまでも他の病院に行くたびに聞かれたから繰り返しだという印象がご本人の中にあるのかもしれません。
それぞれの病院において患者さんの情報がすべてつながっていて、一度自分のことを伝えればどこの病院でもその情報は把握してくれていると誤解している人もいます。
理想的には情報が共有されていれば便利なのですが、残念ながらそうではありません。 他の病院で新たに診察を受ける場合は、相手の医者はあなたのことを初めは何も知らないのです。
お互いの情報の共有のためにも、繰り返しだと思わないで、じっくり質問にお付き合い願いたいと思います。
まとめ
ここで挙げたようなものは、当然ながら医療者側も、質問の意図を患者さんにしっかり伝えるための努力をするべきだと思います。
しかし、「医者からするとこんな話し方はわかりづらいですよ」ということを発信していくことも意味があるのではないかと思い、この記事を書いてみました。
結局のところ、医療は医者と患者のお互いの理解から始まると思っています。
上に書いたような通じにくい例を減らし、情報を医者と患者でしっかり共有できるかどうかが医療の質にとって大事だと思っています。