夕張市の医療崩壊モデルを当てはめても日本の将来は救えない

非都市部の医療崩壊 

非常に興味深い話だったので取り上げます。

病院がなくなっても幸せに暮らせる!夕張市のドクターが説く、”医療崩壊”のススメ

市の財政破綻により市立病院が無くなり、街から救急病院が消えた夕張市。高齢化率45%のなか悲惨な現実が待ち受けるかと思われたが、結果はその真逆だった–。 死亡率、医療費、救急車の搬送回数、全てが下がったマジックの背景を、夕張市立診療所で院長を勤めた森田洋之氏が明かしました。(TEDxKagoshima2014 より)

元動画 Hiroyuki Morita | TEDxKagoshima

ご存じのように北海道の夕張市は2007年に財政破綻となり、市民病院がなくなり事実上の医療崩壊の状態となりました。

にも関わらず死亡率、医療費、救急車の搬送回数の全てが下がったという報告で、市民の病気予防の意識や終末期医療に対する意識が高まったことによると結論付けています。

この夕張モデルが日本の将来を救うという主張ですが、現実はもっと悲惨なことになるのではないかと思ったので少し書いてみます。


夕張市の人口は1万人を切り、高齢化率は45%

終戦後には炭鉱が栄えて一時は12万人まで近づいた総人口も徐々に減少し、ついには昨年2013年に1万人を切っています。

人口推移のグラフ(夕張市ホームページの国勢調査ベースのデータより作成)を下に示します。

夕張市の人口推移

人口がものすごい勢いで減っているのがわかるかと思います。 65歳以上の人口比率を示す高齢化率もどんどん上昇し、2012年のデータでは45.1%という数値です。

2013年の日本全国における高齢化率が25%であることを考えると、この45.1%という数値がいかにすごい数値か分かるかと思います。

この状況下で、心疾患、肺炎、ガンによる死亡率が減ったという現象が観察されたというのは確かに興味深い話だと思います。

病気予防の意識と終末期医療の充実は確かに必要

冒頭の夕張モデルの記事で主張されている「病気予防の意識の大切さ」や「終末期医療に対する意識の必要性」については同意できます。

医療においてなにより一番大切なことは、病気の予防をしてそもそも病気にならないことであることは間違いありません。

また、「救命を目的とした医療」と「終末期における医療」の性質は異なります。 現在の医療では高齢者が病院に運ばれて人工呼吸器をつなぐかつながないかという段階で初めてそれについて家族と相談している現状があります。

もっと早くの段階から、「救命を目的とした医療」から「終末期をいかに本人の希望に沿って迎えるかという医療」に切り替える必要性はものすごく感じています。

今後高齢化社会がさらに進行するにあたって医療経済の観点からも、予防医療の発展と、救命から終末期への医療方針の切り替えをいつどのように行うかという問題が、日本が持っている大きな課題なのだと思います。


病気のリスクを持った人たちが転出した結果という可能性

しかしこの夕張の人口集団で見られた現象が日本の数十年後のモデルとなるかというと、かなり厳しいのではないかと考えます。

人口減少のグラフを見ると容易に想像がつくと思うのですが、夕張市の人口の減少はかなりの数の人口の転出を含んでいるわけです。

総務省の住民基本台帳に基づく人口動態及のデータでは夕張市の過去の転出、転入の具体的な数値までは残っていませんでしたが、上の人口の減少に死亡以外の数値が含まれているのは明らかです。

当然ながら、持病があって総合病院への通院を必要とする人のうちの相当数の人たちは、夕張市外へ転居している可能性が考えられます。

高齢化率45%といえども、心筋梗塞などの病気を起こしやすいリスクを持った人たちの多くが夕張市からいなくなったため、結果として死亡率が下がっているという要因を考えなくてはいけません。

医療が崩壊した夕張市に今もなお住みつづけている方々は、もともと普段から持病がなく病院にかかる必要があまりない人たちが他の地域に比べて多いかもしれないという可能性を否定することはできません。

つまり、「病院がなくなったから死亡率、医療費、救急車の搬送回数が減った」ことの原因として、「病院がなくなったから、病院に通院しなくてはいけないような人たちが転居して夕張市からいなくなり、その結果として死亡率、医療費、救急車の搬送回数が減った」という可能性を考えなくてはいけないわけです。

夕張メロン

夕張モデルを日本の将来に当てはめると悲惨になる

これを考慮した上で、このモデルを日本の将来に当てはめてみましょう。 するとどうなるかというと、医療が崩壊した将来の日本では一定レベル以上の治療が受けられないため、質の高い医療を受けようと思ったら国外に移住する必要があるわけです。

しかし、夕張市という日本の中の一つの地域の医療崩壊と違ってここで問題となるのは、国内での移住に比べて国外への移住は遥かに敷居が高いという点です。

国外への移住ができるのは、海外へ移住できる財産や能力を持っているような一部の人に限られ、やむなく国内に残る大部分の人たちは医療が崩壊した日本で病気とともに生活していくことになります。

そうなると、日本全体で医療が崩壊したときには、夕張モデルのように死亡率が下がるかというと、決してそうはいえないわけです。

医療の崩壊によって、もっとずっと悲惨な未来がやってくるかもしれないということを、私たちは知っておく必要があります。

まとめ

冒頭の夕張モデルの記事では「高齢化で医療が崩壊してもなんとかなるもんだな」という印象を招くと考えられ、現状はもっと切迫していることを知っておかなくてはいけないと思います。

ただ、記事内で主張されている病気予防の意識の大切さや終末期医療に対する意識の必要性については同意できます。 医者患者に関わらず、日本国民全員がこれらを軸にした医療を目指していかないと、やってくる未来は想像よりももっと悲惨なものになると思います。

コメント一覧

  1. […] 財政破綻で一躍有名になってしまった北海道夕張市、そこでで起きた医療崩壊。 病床数が減り、医者も去り、救急病院もなくなった夕張市では死亡率、医療費、救急車の­出動回数、全てが下がったというお話です。 ”病気のリスクを持った人たちが転出した結果という可能性”という見方もありますが、このお話の大切な部分は、”病気にどのように向き合うか”ということだと思います。 […]