筧利夫さんがテレビCMで逆流性食道炎をゴリ押ししている理由

逆流性食道炎って前から知ってました?

俳優の筧利夫さんが出演している逆流性食道炎のCMをよく目にします。

以前患者さんに、なんで最近急に逆流性食道炎のCMが出てくるようになったんですか?と聞かれることがあったので、それについて書きたいと思います。


逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流して食道の粘膜を障害する病気

まず逆流性食道炎について説明しておきます。 食べ物を飲み込むと、飲み込まれた食べ物は食道を通って胃に運ばれて、そこで胃酸によって消化されます。

胃の粘膜は胃酸に耐えうるようにできていますが、一方で食道の粘膜は胃酸のような強い酸に耐えられる構造になっていません。

逆流性食道炎はその名の通り、主に胃の中の胃酸が食道に逆流して食道の粘膜を障害して起きる病気です。 逆流性食道炎自体は胸やけなどの不快な症状を起こしますが、直接命に関わるものではありません。

しかし、繰り返し胃酸にさらされた食道の粘膜は性質が変わってしまい(バレット上皮といわれています)、食道癌の原因になるといわれています。

逆流性食道炎のCMは第一三共株式会社アストラゼネカ株式会社による疾患啓発活動

CMを行っているのは第一三共株式会社とアストラゼネカ株式会社で、いずれも製薬会社です。

逆流性食道炎の一連のCMはこれらの会社が2011年から行っている疾患啓発活動で、逆流性食道炎について一般の方に情報を広めようという活動です。

参考リンク 逆流性食道炎 疾患啓発活動 「あなたのその症状、『胸やけ』『呑酸』ではありませんか?」 スタートのお知らせ-アストラゼネカ株式会社

活動が始まってからだいぶ時間もたち、確かに逆流性食道炎という病名は広まったように思います。

さて、なぜこの製薬会社が逆流性食道炎の啓発活動を行うかというと、逆流性食道炎の治療の第一選択となるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の新商品の販売促進を兼ねているからです。

参考リンク 【アストラゼネカ/第一三共】「ネキシウム」を国内投入‐MR3500人体制で国内PPI市場トップ狙う-薬事日報

逆流性食道炎の治療では基本的にまずこのプロトンポンプ阻害薬が用いられるので、逆流性食道炎なのに治療を受けないという人を減らし、薬の売り上げを伸ばすという意図があるわけですね。


じゃあなんで最初から薬のCMをしないの?

薬を売りたいのであれば薬のCMをすればいいかというとそうでもなくて、病院で処方される薬は患者さんが自分で直接購入できるわけではありません。

仮に医薬品のCMを見て薬をほしいと思っても、患者さんはほしい薬を買えるわけではありません。病院を受診して、診断された上で病気に合った薬を処方してもらうわけです。

そこで製薬会社としてはまず患者さんに病院に行ってもらえるようにしなくてはいけないわけです。 また、薬の広告において、他の同じような成分の薬と差別化を図ったCMを作るのが難しいという点もあります。

薬事法によって医薬品などの薬は、基本的に「この薬はよく効きますよ」といった広告をするのがなかなか難しいのです。 薬事法の一部を抜粋して見てみましょう。

薬事法(昭和35年法律第145号)第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。 参考リンク 医薬品等の広告規制について-厚生労働省

つまり薬の効果を前面に押し出した広告というのが非常にやりにくくなっているわけです。

購入可能な薬のCMで有名なものだと、最近流れていたものの中では嵐の大野君のアレグラのCMがありますが、あのCMも薬の詳細な効果ではなくインパクト重視になっていますよね。

逆流性食道炎の治療薬に関しては、治療薬そのものは患者さんが直接購入できるものではないことと、薬の効果の差別化を強調する広告を作るのは難しいので、薬ではなくて病気そのものを前面に押し出したCMになっているのだと考えられます。

逆流性食道炎のCMは疾患啓発活動と企業活動がうまくマッチした例

逆流性食道炎の啓発活動は、病気を知らない人には非常に役立つ活動であり、一方で製薬企業側は自社の利益も追求できる活動であるわけですね。

実際に私の外来でも、CMを見て不安になって病院に来たのですがという方がいらっしゃいます。

他にも啓発活動するべき病気というのはたくさんありますが、病気についての情報を個人や病院、学会単位の活動で拡散して、こういった規模のことをするのはなかなか難しいと思います。

なんだか医療者としては少し悔しいという感じもしますが、逆流性食道炎の件では病気の啓発活動に企業活動が加わった場合の情報拡散力というものがいかに強いかというのを思い知った気がします。

逆に考えると病気の啓発を成功させるためには、一つの選択肢として、いかに企業活動と連動させるかが大事なのではないかと思います。

企業活動と疾患啓発の組み合わせは非常に大事だと思うのです

まとめ

逆流性食道炎のCMは製薬会社による病気の啓発活動で、同時に企業としての利益も追及している活動です。

病気についての情報を個人、病院、学会単位の活動で拡散して広めるのは難しい点が多々あります。そこで企業活動と結びつけるというのは一つの有用な選択肢になるのだと思います。

参考文献)
逆流性食道炎・食道潰瘍,バレット食道,食道裂孔ヘルニア 今日の治療指針2014年版
胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 編集 日本消化器病学会 2009年