風邪が治らない場合には病院を変えるべきなのか

外来をしていてけっこう多いのですが、「風邪で〇×病院にかかって薬をもらったのですが、良くならないのでこちらに来ました」という方がいらっしゃいます。
病院をかえること自体が一概に良いとか悪いとか決めるのは難しいのですが、そういったときに注意していただきたいことがありますので、いくつか書いていきたいと思います。
病院を変えることは利点と欠点がある
まず始めに風邪の症状で途中で病院を変えることによる利点と欠点を考えてみます。
前提条件として、持病のない健康な人のただの風邪であれば何もしなくてもいずれ治るので、問題となるのは風邪だと思っていたけれども実はただの風邪ではないというケースです。
つまり、病院を変えることで、実はただの風邪ではなかったというケースをより正しく診断してもらえるかどうかということが論点になります。
その上で病院を変える利点と欠点を挙げてみると、
治らない風邪で病院を変える利点
- 複数の医者が診察することになり、病気の見落としが少なくなる可能性がある。
- 症状に対して適切な診療科を選んでいない場合には、より適切な診療科を選ぶことで正しい診断にたどりつく可能性が高くなるかもしれない。
治らない風邪で病院を変える欠点
- 途中で医者が変わることで、良くなっているのか悪くなっているのかに関して医者が把握しづらくなる。
- 症状に対して適切な診療科を選んでいたのに、あまり適切でない診療科に変えてしまうと正しい診断にたどりつく可能性が低くなるかもしれない。
といったことが挙げられるかと思います。実際のところ一概にいいとか悪いとかいえるわけではなく、それぞれの場合によっていいか悪いかは異なります。
また、風邪が治らないから病院を変えるという場合に知っておかなくてはいけないこととして、
- どの薬が効かなかったのかは大事な情報となる。
- 風邪が治らないということ自体が大事な所見となる
- 大きな病院では紹介状が必要となる場合がある
ということが挙げられますが、これらのことを押さえておくとどうするべきかの判断に役立つかと思われます。
それではこれらの利点と欠点、そして注意点について、それぞれ詳しく述べてみます。
利点①:複数の医者が診察することになり、病気の見落としが少なくなる可能性がある
風邪の症状で病院にかかることの大切な意味は、背景に他の病気が隠れていないかをしっかり診てもらうことです。
その際に病院を変えることによって、複数人の医者の目を通すことで病気を見落とす危険が少なくなるという面は確かにあるといえます。
さらに病院や診療科を変えることで、できる診療や検査は変わってきますので、それによっていろんな方面から診療を受けることで、前医でわからなかったことが新たに見つかる可能性があります。
ちなみに、「後医は名医」という言葉があり、これは後から診た医師の方が情報が多く得られるので名医となりやすいという意味です。
利点②:より適切な診療科を選ぶことで正しい診断にたどりつく可能性が高くなる
例えば喉の痛みがひどくて耳鼻科で診てもらったとしても、その後咳がひどくなってきたから肺炎が心配ということであれば内科で診てもらう方がよいでしょう。
個人的には症状に対して適切な診療科を選んでいない場合には病院を変えることは必要となる場合もあると思います。
但し病院を変える際に、自分の症状にあった適切な病院、適切な診療科に変えるというのであればよいのですが、そうでなければ病院を変えてもあまり意味はありません。
一番確実なのは、病院を変えようと思った際にどのような診療科、どのような病院がいいか今の医師に相談してしまうことなのですが、遠慮して聞かないケースがほとんどのように思います。
個人的には本当に病院を変えたいと思ったら、自分の症状に関してより適切な科はどこなのかを医者に聞くのに遠慮するべきではないと思っています。

欠点①:改善しているか増悪しているかがわかりにくくなる
しかし病院を変える際に起こりうる欠点の一つとして、医師側が病状が良くなっているのか悪くなっているのか把握しづらくなるという点があります。
ご自身で症状が改善しているか増悪しているか判断する以外に、医師から見て良くなっているのか悪くなっているのかという点も当然大切な所見です。
例えば喉の充血や扁桃の腫れがあるのであれば、それが良くなってきているかどうかは一人の医師が継続して診ていなければ判断できません。
ですので、病院または医師を変えることで、これらの情報が把握できなくなるという欠点があることは知っておいていただければと思います。
欠点②:あまり適切でない診療科に変えてしまうと正しい診断にたどりつく可能性が低くなる
これは利点②で挙げたことの反対のことですが、風邪が治らないという理由で病院になんらかの不信感のような感情をもつ方というのが、実際少なくありません。
その際に自己判断で病院を変えてしまい、あまり症状に適していない科や病院を選んでしまう可能性があります。
ですので病院を変える際には前述のように相談してしまうか、または自分で病院を選ぶにしても自分の症状について十分に調べてからのほうがよいと言えます。

どの薬が効かなかったのかは大事な情報となる
病院を変えることによる問題点は、病状についての継続的な情報のほかに、検査や薬の情報が途切れる可能性があることです。
風邪の症状程度だと、病院を変えるのにわざわざ紹介状をもらうという人はあまりいらっしゃらないかと思います。
しかしそうなると、もし何か検査をしていればその情報が次の診療に生かされないことになります。
また、他の病院で風邪で薬をもらっていたけれどもよくならないので来ましたという方の多くで、前の病院で出されて飲んでいた薬を聞いてもわからないケースが多いです。
新たに処方をする場合に、以前飲んでいた薬の情報は非常に大切です。また、飲んでいたけれども効かなかった薬というのも役立つ情報になります。
例えば抗生剤などが処方されていたのであれば、どの抗生剤が効かなかったのかというのは後々大事な情報となる可能性があり、受診の際にはぜひとも医師に伝えるべき情報です。
ですので、たとえ風邪であっても病院を変える場合には、処方されて飲んでいた薬の正確な名前、正確な内服量を教えていただけると助かります。
紹介状があればこれらのことを気にする必要はありませんが、紹介状がないのであれば検査の結果用紙や薬の情報は必ず次の病院に持ち込んだほうがよいでしょう。
風邪が治らないということ自体が大事な所見となる
そもそも今の医学は、最初の診察でただの風邪をただの風邪だと100%診断できるほどのものではありません。
最初の診察後にどのような経緯をたどるかというのも、ただの風邪なのかそうでないのかを判断するための大切な情報になります。
風邪薬を長期に処方してもらえない理由は、保険の制約もありますが、数日分の薬を飲んでも改善しないようであれば、ただの風邪ではないかもしれないのでもう一度受診してほしいという医者側の意図も含まれています。
そして実際のところ、医療者側の風邪に対する感覚というのは、「風邪を治す」わけではなく、「ただの風邪かどうか、症状を抑える薬だけ処方して様子を見る」という表現が近いといえます。
病院を変えることを否定するわけではありませんが、必ずしも風邪が治らないから自分で病院を変えなくてはいけないとことはなく、二回目以降に継続して診察した医師がただの風邪ではないと判断すれば、必要に応じて専門機関に紹介する流れになります。
大きな病院では紹介状が必要となる場合がある
また、数日間の風邪症状であれば病院を変えるとはいえ、紹介状が必要になるようなことはあまりありませんが、総合病院などの大きな病院では初診時に紹介状が必須となっているところもあります。
本人が風邪の症状だと思っていても、あまりに経過が長かったり、そのために前医でいろいろと検査をしているのであれば、やはりただの風邪ではない可能性も考えなくてはいけません。
そのような経過が長かったり、検査をいろいろ行ったというときには、それらに関する情報も診断にとって非常に大切になりますので、病院を変えるにあたって紹介状をもらうことも検討していただければと思います。
紹介状があれば同じ検査が繰り返されたり、医師が客観的に見た経過が伝達されるので、患者さん自身の利益となり得ます。
まとめ
風邪が治らないから病院を変えるという際には、いくつか欠点があるので注意していただければと思います。
自分の判断で病院を変える場合、適切な病院、適切な診療科を見つけるのが難しいという問題があります。薬の情報や検査の情報なども、途切れないように注意する必要があります。
風邪が治らないから病院を変えたいという際には、これらのことに気を付けていただいた上で実際に病院を変えるかどうか判断していただければと思います。