特定機能病院とは何か|取り消された大学病院はどうなるか

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最近医療事故のニュースに混じって、「特定機能病院」という単語を目にする機会が増えてきました。

以下の二つのニュースは専門的な医療機関である大学病院の責任が追及されるものであり、注目を集めています。

腹腔鏡「だまされた」 群馬大病院の特定機能、取り消し検討 – 朝日新聞デジタル

東京女子医大の「特定機能病院」 取り消しを要望 -NHK NEWSweb

これらの中で「特定機能病院」の取り消しを検討という言葉がでてきます。

大きな病院のなかでも特に先進的治療を行い、一定の条件を満たした病院が「特定機能病院」として承認されるわけですが、具体的にどういう条件があるのかはあまり知られていないように思います。

この記事ではこれらのニュースの内容を理解する目的で、特定機能病院というものが、どういう条件を満たすものなのかについて記載したいと思います。


特定機能病院は86機関で厳しい認定条件が定められている

今現在、86 医療機関(平成25年4月1日時点)の特定機能病院が存在します。

特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会 – 厚生労働省

上記サイトの資料を見てみます。

条件の項目は「高度の医療の提供」、「高度の医療技術の開発及び評価」、「高度の医療に関する研修」、「診療科目」、「病床数」、「人員配置」、「構造設備」、「諸記録」、「紹介率」、「安全管理」、「事故等事案の報告」、「その他」と各項目にわたって細かく設定されています。

これらの厳しい条件を満たすことで、診療報酬上は優遇を受けられるというシステムになっています。

特定機能病院は高度医療の提供が認定条件となっている

まず一つ目の高度医療の提供については、「特定機能病院以外の病院では行うことができない診療を行っていること」が挙げられています。

そして具体的には「先進医療」を行っていることと記載されています。

先進医療は、「厚生労働大臣によって定められた高度の医療技術を用いた療養」とされ、保険診療が認められていない段階の医療でありながら、保険診療との併用が認められています。

つまり通常は保険診療が認められていない治療を受ける場合には全額自己負担となるのに対し、先進医療は保険は利かないものの国に認められている治療なので、先進医療の部分だけ保険適応外とした混合診療が認められています。

先進医療として認められた治療は平成27年3月1日の時点で105種類しか存在しません。

先進医療を実施している医療機関の一覧 – 厚生労働省

また、上記の先進医療のほか、「特定疾患治療研究事業」によって認められた病気の診療を行っていることも条件として記載されています。

特定疾患治療研究事業で対象とされた病気の治療では、保険診療の自己負担分の一部が公費負担によって助成されます。

現在では56種類の病気がこの事業の対象となっています。

特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表 – 難病情報センター

さらに正確な検査および診断を行うために臨床検査および病理診断を行う部門を病院内に設置することも挙げられています。


特定機能病院では高度の医療技術の開発及び評価が行われている

特定機能病院では、先進的な医療を患者さんに提供するだけでなく、そのような診療に関する技術の研究や開発を行うように定められています。

特に注目するべきは、施設から発表される英語論文の数が年間70 件以上であることが要件(旧要件では使用言語問わず100件)とされるようになっており、診療施設としてだけでなく、研究機関としての側面を求められた施設であることがわかります。

また、行う先進的な治療の効果、安全性を適切に評価する体制を持つよう定められており、倫理審査委員会の設置や医療従事者に対して倫理に関する講習や教育を行う体制の整備が盛り込まれています。

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特定機能病院では高度の医療に関する研修が行われている

特定機能病院においては、上記の診療と研究に加えて、さらに「当該専門的な研修を受ける医師及び歯科医師の数が年間平均30人以上」とされており、それに加えて10年以上のその診療科における経験を持ち、その診療科ごとの研修プログラムを管理する研修統括者の配置することが要件として盛り込まれます。

つまり特定機能病院は、医師の教育機関としての機能も求められていることがわかります。

ちなみに研修を受ける医師とはいわゆる医師になりたての研修医のことではなく、要件とされるのは「規定による臨床研修を修了した医師及び歯科医師に対する専門的な研修」とされており、当該施設が専門的な技術または知識をもつ医師を育てる環境でなくてはならないという意味です。

つまりベテランの医師しかいないという環境では逆にだめで、特定機能病院はベテランの医師が若い医師を育てる環境でないといけないということになります。

特定機能病院は幅広い診療領域を持つことが求められる

診療科目に関する特定機能病院の要件として、これまでは内科、外科、精神科、小児科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、脳神経外科、整形外科、歯科、麻酔科の中から10科目以上の診療科を持つことが定められていました。

しかし平成26年4月からの改正では、基本的にこれら16診療科の標榜が求められる要件となる旨が記載されています。

さらにはその改正のなかで、配置されている医師の半分以上が上記16診療科から歯科を除いた各診療科の専門医であることを新たに要件化することが述べられています。

診療領域に関しては今後より厳しく設定されることになる流れがあるようで、つまり特定機能病院は広い分野においてそれぞれの専門性を有した医師がいることが要件とされ、幅広くかつ層の厚い医師の設置が求められた施設であるということになります。

特定機能病院は同時に多数の患者を入院させる能力が求められる

特定機能病院は、400床以上の病床数を持つことが認定条件として定められています。

厚生労働省の平成24年医療施設(動態)調査・病院報告の概況を参照すると、400床以上の病床数を持つ病院は全体の9.7%にあたります。

つまり特定機能病院は入院施設としてそれなりの規模を持っていないといけないということになります。

特定機能病院は手厚い人員配置が求められる

特定機能病院における医師の配置人数は、(入院患者数+外来患者数/2.5)/8以上とされています。

一般病院における一般病床の法定人員配置が患者16人に対して医師1人となっていることを考えると、特定機能病院ではかなり手厚い医師の配置が求められることになります。

ちなみにこの法定の配置人数に医師免許取得後2年以内の研修医は含まれません。

また、看護師、准看護師、薬剤師などのその他の業種も一般病院に比べて患者あたりに求められる人数は高くなっています。

特定機能病院は重症患者のための設備が求められる

通常の一般病院は病院として機能するために診察室、手術室、処置室、臨床検査施設、レントゲン装置などの設備が必要とされます。

特定機能病院ではさらに重症患者に対応するために集中治療室、無菌室が必要とされています。

さらには医薬品に関する情報管理の設備や、病理解剖の設備などが必要とされます。

一般の患者さんを診療する以外に、ほかの病院では対応できないような重症患者さんを診療したり、ほかの病院では診断できない患者さんを診療したりするために、特定機能病院は貴重な医療資源が集中している病院であるともいえます。

特定機能病院ではより詳細な記録の管理が求められる

特定機能病院では、診療記録に加えて病院の管理や運営などに関する記録に関しても責任者を定めて適切に管理することが義務付けられています。

そしてこれらは、求めに応じて適切に閲覧に応じられる体制を作ることも同様に定められています。

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特定機能病院では一定以上の紹介率を保つことが求められる

紹介率ってなんだ?という感じですが、実はこれが昨今の大病院の紹介状に関連したニュースと関わる重大な条件です。

紹介率とは旧基準においては(文書による紹介受け入れ患者数)+(紹介した患者数)+(救急車による搬入患者数)を(初診患者数)+(紹介した患者数)で割った数値とされ、30%を下回らないようにするよう記載がありました。

これだけだといまいちイメージがつかないかもしれませんが、要はほかの病院から紹介状を持ってきた患者さんを受け入れたり、救急患者を受け入れたりするほど、この紹介率は上がります。

地域からほかの病院で手に負えなかった重症患者さんなどを積極的に受け入れている尺度であるともいえます。

さらに平成26年度4月から施行されている新基準では、紹介率は(紹介患者数)+(救急搬送患者数)を(初診患者数)で割った数値とされ、50%以上というより厳しい数値が設定されています。

つまり特定機能病院はその認定を維持するために、紹介状を持ってきた患者さんをよりたくさん診療しなくてはいけないことになり、紹介状の有無での初診料の引き上げの問題とつながっています。

それだけではなく、新基準では(紹介した患者数)を(初診患者数)で割った数値を逆紹介率と定義し、40%以上を保つように記載があります。

つまり、より一層地域から専門的治療を必要とする患者さんを受け入れるよう努力するのと同時に、専門的治療が終了した時点でもとの病院や地域の病院に患者さんを帰さなくてはいけなくなりました。

これが、大病院にずっと通院したいのに紹介状を書いて戻されてしまったというケースの原因にもなっています。

地域にかかりつけ医を作り、必要なときだけ大病院を受診するというシステムを国が作ろうとしているわけで、そこらへんの意図が反映されているのがこの特定機能病院の紹介率の数値設定だともいえます。

特定機能病院ではより厳密な安全管理と事故事案の取り扱いが求められる

特定機能病院では、医療に関する安全管理を行う専任者の配置および部門の設置が必要とされます。

さらに病院内で安全管理のための指針を整備し、安全管理を目的とした委員会の開催や職員研修なども義務付けられています。

また、院内感染、医薬品、医療機器に関しても同様に安全を管理するための綿密な体制を維持することが求められます。

医療事故に関しては速やかに管理者に届け出るシステムを維持するとともに、事故の事例を収集、分析して適切に病院の問題点を把握して改善するよう記載されています。

そして万が一事故が発生した場合、発生日から2週間以内に事故等報告書を作成して、厚生労働大臣の登録を受けた事故に関する分析事業を行う組織(財団法人日本医療機能評価機構)へ提出することが定められています。

先進医療を含めた高度な医療が行われる施設である以上、より一層厳しい管理が必要とされていることになります。

特定機能病院認定は取り消されたことがあるのか

特定機能病院は、その厳しい認定条件を満たすことで、診療報酬上の優遇が受けられます。

しかし医療法において、厚生労働大臣が一定の条件のもとに特定機能病院の認定を取り消すことができると定められています。

  1. 医療法で定められた特定機能病院の要件を欠くに至ったとき
  2. 特定機能病院の開設者は厚生労働大臣に対して業務に関する報告書の提出が義務づけられているが、これに違反したとき
  3. 特定機能病院の開設者が構造設備が規定の違反に対する厚生労働大臣からの修繕又は改築の命令や、病床機能に関する規定された報告をしない、または虚偽の報告があった場合の報告内容の是正の命令に違反したとき
  4. 特定機能病院の管理者は、厚生労働省令の定める特定機能病院としての要件事項を満たすよう業務を行わなくてはいけないが、これに違反したとき

医療法(昭和二十三年七月三十日法律第二百五号)より一部引用改変

過去には、1999年に患者取り違え事件によって横浜市立大病院が特定機能病院の認定を返上し、2001年に再承認を受けています。

また、今現在特定機能病院の取り消しが検討されている東京女子医科大学病院が、2002年に医療事故によって取り消し処分を受け、2007年9月に再承認されています(東京女子医大事件)。

また、東京医科大学病院も2005年に医療事故によって特定機能病院の取り消し処分を受け、2009年2月に再承認を受けて現在に至ります。

過去の事例はいずれも医療事故に起因する認定返上または取り消しです。

まとめ

特定機能病院は、高度な医療を行う施設として厳しい要件を満たすことで認定され、診療報酬上の優遇を受けます。

過去には医療事故によって認定を返上、または取り消しになった事例が存在します。

今現在、東京女子医科大学病院および群馬大学医学部附属病院の特定機能病院取り消しの審議のための社会保障審議会が開始されています。

認定取り消しとなれば、診療報酬上の優遇はなくなり、またおそらく患者数が減少し、医師や看護師を含めた優秀な人材も新たに入らなくなるまたは流出する可能性が考えられます。

私たちはこの成り行きを見ていくにあたり、特定機能病院というものがどういうものなのか、どうあるべきものなのかを改めて知っておかなくてはいけないと思います。

参考文献)
特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会報告書-厚生労働省
第9回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料 特定機能病院に係る基準について-厚生労働省