小さい子供がいるからという理由で家族が救急車に同伴しないことは是か非か

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自分の当直での経験の話です。すでに何度も経験しているのですが、救急搬送される患者さんに家族が付き添ってこないというケースが非常に多いです。

その中でも、たとえば旦那さんが急にお腹が痛くなって救急車で運ばれるといった状況で、奥さんが小さい子供の面倒を見なくてはいけないから家に残るというような、小さいお子さんを理由にしたケースが目立ちます。

仕方がないといえば仕方がないのかもしれませんが、医療に従事する側からすると、少し疑問が残る点があるのも正直なところです。

小さい子供がいる状況で、しかも場合によっては深夜ともなれば連れて出られるはずがないという意見があるのも承知しています。

これまでにも、電車内でのベビーカーの冷遇の話など、日本では子育てに関わっていない人間が子育てをしている人間の苦労をわかっていない、子供を持つ母親に冷たいという意見が多々挙げられているのはわかっていますし、自分も子育てを取り巻く日本の現状はよくないことだと思っています。

これから書く内容はもしかすると、ベビーカー論争のように子育てをする母親の苦労を理解していないと非難がくる内容かもしれません。

しかし自分の中ではベビーカー論争とは論点が少し異なるのではないかと思っており、子供が小さいからという理由で家族が救急車に同伴しないことは是か非かという点について思うことを、あえて書いてみることにします。


救急車に家族が同伴することは運ばれる患者のために大切である

まず前提として、小さい子供がいるかいないかは置いておいて、救急車で運ばれる患者には家族が付き添ったほうがよいという話をしたいと思います。

家族が付き添ったほうがよいのにはいくつか理由があります。一つ目は、運ばれた患者の普段の状態というのは、診察する医者にはわからないからです。話し方、歩き方が一見するとおかしくはないけれど、一緒にいる家族にはおかしいとわかる、という状況があり得るわけです。

患者本人すらわからないような体の異常を、家族が指摘して医師に伝えるというケースが実際ありますし、それをきっかけにして重大な病気が明らかになったことも実際にあります。

また、患者の状態が急に悪くなって、意識がなくなって自分で話すことができなくなる可能性だってあります。

ですから家族が付き添って、救急車を呼ぶに至った状況を事細かに医師に伝えるというのは、患者の診断や治療に影響を与えうる大切なことなのです。

その日のうちに家に帰れるかどうかは診察しないとわからない

もう一つは、救急車で運ばれたという時点で、重症である可能性が高いという点です。

救急車で運ばれてそのまま入院になったり、緊急手術になったりといった可能性があるわけです。運ばれる時点ではその日のうちに家に帰れるのかどうかはわからないのです。

実際に救急車で運ばれた人がそのまま緊急入院するケースというのはどれくらいあるのかに関しては、以下のデータが見つかりました。

救急車からの入院率は粗平均値が 22年度 45.5%、23年度 45.5%、24年度 45.4%とほとんど変わっていない。

(平成25年度 救急医療アンケート調査結果 – 日本病院会より引用)

上記のデータは、対象が救急指定病院のみであり、しかもすべての対象となる病院から得られたデータではないので、現実の救急車搬送の緊急入院の比率をそのまま示しているわけではありません。

しかし、救急車で運ばれる場合には緊急入院する可能性が十分にある、ということは見て取れるデータだと思います。

緊急入院となって、場合によって緊急手術が必要となれば、家族同伴の上で手術の必要性、危険性を説明し、同意をいただいた上で手術を行います。

緊急で手術が必要だという場合、患者の詳しい状況を家族に説明する必要があります。そのようなとき、家族が来られる距離にいるのに不在である、というのは往々にして患者家族と医者の間のトラブルのもとになります。

電話で家族に状況を説明すればよいという意見もあるかもしれません。実際急を要する場合に患者の家族と電話でやり取りすることもないわけではありません。

しかし電話での病状説明は、医療者側からすると電話口の相手が本当に家族なのかの確認もとれない不確定なものです。

自分の経験では、患者の家族のふりをして患者の病状を聞き取ろうとする電話があったこともあります。守秘義務を重んじて電話での病状説明を行わないこともあります。

そして医療というものはどんな治療でも副作用があったり、合併症があったりして100%の成功を約束するものではありません。患者本人、そして患者家族の治療への十分な理解と同意が不可欠です。

ですので、「家族がその場にいる」というのが、質の高い医療のためには必要なのです。

周りの人間が救急車が必要だと判断して119番通報し、実際に救急車で搬送された人は、一般の方が想像する以上に危険な可能性があるということを知っていただきたいと思います。

そして、「家族がその場にいる」ことが、患者の治療成功のための一部分であることも同様に知っていただければと思います。


本当に小さい子供をつれてまで救急車で一緒に病院にいくべきなのか

さて、話を「小さいお子さんがいる」という話に戻します。

たとえば深夜に救急車を呼び、旦那さんが救急車で運ばれるというケースです。小さいお子さんがいて、奥さんは一緒には行けないと言っているという状況です。想像していただくのは旦那さんと奥さんが逆のケースでもかまいません。

こういった場合、上に挙げたような緊急入院や緊急手術の可能性を理解していただいた上で、病院に一緒には来れないと言っているのであれば仕方がないと思います。

しかし現実的にはおそらく、この場合の多くの人が「病院で診てもらって数時間後には旦那または妻は一人で帰ってくるだろう」と思って、病院についてこないという判断をしているのではないかと思っています。

前述のデータの通り、救急車で病院に運ばれて無事にその日のうちに帰宅できた人というのは全員ではありません。そのまま緊急入院になっている人もたくさんいるわけです。

また、たとえ入院にならなかったとしても、救急外来から帰宅する場合には、ほとんどの場合家族に付き添ってもらいます。

医療に100%はありません。帰宅途中に症状が再発するかもしれませんし、そのようなときに誰かが付き添って帰っていれば、何かあった時にすぐに病院に連絡できます。

医療に従事する人間として言わせてもらうと、良質な医療にとって大切なのは、常に最悪の状況に備えて行動することです。そしてそれは医療者に限らず家族にも言えることです。

当直をしていると、寝ている子供を抱きかかえながら救急外来についてくる家族の方を数多く目にします。筆者である自分も小さい子供がいますが、家族が夜に救急車で運ばれたとしたら、なんとかして必ず救急車でついていきます。

仮に病院についていかないという選択をした人がいたとして、その選択が本当に最悪の状況を考えてのものなのかどうか疑問が残ります。

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救急搬送時の患者家族用託児所の実現は不可能か

一方でお見舞いなどの話で、必要がないのに小さい子供を病院に連れてくるのはそもそもよいことではないといった意見もあるかと思います。

子供が風邪をまわりの患者にうつす危険性もありますし、騒いでほかの患者に迷惑をかけることもあるかもしれません。

しかし救急車を呼んだという特別な状況であれば、上記の例のように他に面倒を見られる人がいない状況では、小さい子供と一緒に患者に付き添うのは止むを得ないと思います。

救急搬送された患者の利益を第一に考えると、やはり来られる距離にいるのであれば家族が付き添ったほうがいいことは間違いありません。

理想を言えば、たとえば救命センターレベルの施設であれば、救急車で搬送された場合に限って利用できる患者家族用の託児所があればいいと思っています。

病院職員向けの託児所を持つ病院は実際にすでに数多くあり、中には患者さんの診察時の一時保育に対応している託児所もあります。

しかし現在の日本の医療費の状況、医療現場の疲弊を考えるとすべての施設で患者家族用として託児所を確立させるのは難しいでしょうし、救急搬送用に病院内で託児所を24時間体制で回すというのは現時点ではかなり飛躍した要望だと言わざるを得ないでしょう。

現実にはそのような施設はありませんし、授乳室やおむつ替えの台などの設備ですらまだ整っていない病院が多いのも事実です。

そして子供が小さいから家族は付き添いしないといった場合、医療者側はその選択を受け入れるしかないのが現状です。

まとめ

救急車に家族が付き添うかどうかは、患者の診断や治療に影響する可能性がある重要な因子です。

家族が救急車で運ばれた場合、必ずしも「数時間後には家に帰ってくる」わけではありません。緊急入院、緊急手術が必要になる可能性が十分にあります。

小さい子供の面倒を見なくてはいけないという状況では、付き添いを躊躇する気持ちもわかります。しかし第一に考えるべきは救急車で運ばれる患者にとってどうするのが一番よいか、という点ではないかと思います。

もしものときにはこれらのことをすべてご理解いただいた上で、付き添うかどうかをご判断いただければと思います。