「高齢な医師ほど名医」「若い医師はヤブ医者」は間違いである

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少し気になった記事があったので、取り上げてみたいと思います。

30代前半の「若い開業医」は信用してはいけない!?

医療の現場にいる視点から意見を述べる上で、自分は雇われの身ですし自分で自分を優秀だとは思えるような医者ではないことをまず言っておきます。

記事は、あまりに若い開業医の場合には注意せよという内容ですが、内容があまりに淡白だなぁという印象がまずひとつ。

それと、若い開業医にも優秀で臨床能力の高い人がいるし、実際のところ年を重ねているからといって医者としての能力が高いとはいえない人も多々いるなぁというのが自分の印象です。


医師の年齢がそのまま臨床能力を表すわけではない

医者の臨床能力というのは、ある程度の年齢まではみんな上がっていくわけですが、すべての医者の臨床能力がそのままずっと上がり続けていくわけではありません。

すべての医者が臨床の第一線で患者を診続けて、最新の治療に関する医学論文も読み続けて、スペシャリストとしての知識を更新し続けているというわけではないということです。

では、そうでない医者とはどのような医者かというと、仕事の内容のうち医業以外の占める割合が徐々に高くなり、仕事の中心が医業以外にシフトしていく医者です。

目立つところでいえばタレント活動や執筆活動に時間を割くようになる医者がいるのは皆さんご存知の通りかと思います。

それ以外にも研究や管理職としての仕事や開業医としての経営の仕事の割合が増えてきたりするケースが多いです。

比較的若い年代の医者であれば、仕事に費やす全ての時間を患者の診療と勉強に費やすことができますが、年齢が上がっていけばいくほどその割合は100%ではなくなっていく人が多いように思います。

年齢が上がっていけば当然ながら経験は蓄積されていきますが、新しい情報を取り込む時間がなかったり、仕事を医業以外の業務に圧迫されてしまい思うようにできなかったり、というケースは自分が見る限り珍しいことではありません。

それでも第一線での臨床能力をキープし続けている医師はいます。しかし年齢が高い医者が全員高い臨床能力をキープし続けているわけではありません。

医師はそれぞれ専門分野を持っている

現在の日本の大学医局などにおける医者の教育課程では、ひとつの専門分野における専門的知識および専門的能力を身につけるための教育が行われます。

家庭医などのジェネラリストを養成するプログラムを組んでいる病院もありますが、まだまだその数は少ない状況です。

その結果、日本におけるほとんどの医者はなんらかの領域のスペシャリストとしての教育を受けたのちに、診療所を開業して独立しています。

そして開業後はスペシャリストではなく、様々な分野の症状の患者を診察して、必要があれば専門的な病院に紹介する医療の入り口としての役割を担うジェネラリストとして経験を積んでいくことになります。

しかし開業後のジェネラリストとしての能力とは別に、それぞれ従事してきた専門分野があるので、医者によって得意な分野と経験の乏しい分野の偏りがどうしても存在します。

すべての分野に関して、完璧な知識と能力を持っている医者というのは、探せば世界のどこかにいるのかもしれませんが、私はそのようなスーパーマンは存在しないと思います。

しかし得意な分野の例として、例えば内科で開業している医者で、開業前は実は総合病院で専門外来を担当していてその領域に関しては豊富な診療経験があったりということがあります。

また、大きな病院や大学医局から開業して独立した直後は古巣との人脈のつながりも豊富で、患者さんの症状が得意な領域に当てはまればスムーズに患者さんを専門機関に紹介できたりということもあります。

たまたま患者さんの症状がそのような医者の得意分野に当てはまった場合、「あの先生は名医だ」という評価につながることがありますが、逆に言えばその医者は全ての患者さんにとって同じように名医であるわけではありません。


名医とヤブ医者の定義とは何か

つまり医者の臨床能力が優れているかどうかは、「若い医者だからダメそうだ」とか、「ある程度年が上そうだから大丈夫そうだ」とか単純に推測して当たるものではないということです。

そして、 1人の患者が1人の医者から受けられる医療の質が高いかどうかは、その医者の携わってきた専門分野や得意分野によって変わる可能性があります。

医者が臨床の仕事以外にどれくらいの時間を割いているのかは、目立つ媒体に頻回に出てくるようなケースではおおよそ想像がつきますし、医者の得意とする分野はその医者の経歴を詳しく調べ込めばわかります。

また、なんでも診られる医者がいたら確かに名医と呼べるのかもしれませんが、医者が患者さんの状態を自分の能力の及ばない範囲だと適切に認識し、専門の医師に素早く紹介できることも重要な能力です。

ですので、「若い開業医には注意せよ」という言葉だけでは、ぜんぜん的を得た忠告になっていないし、自分の症状や病気に合った良い医者を探してもらおう、または良い医者を探そうというのであれば、上に書いたように注意を向けるべき点がもっと他にあるのではないかと思います。