「病院の薬を飲めば風邪が治る」という誤解はどこから始まったか

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外来をやっていると「風邪をはやめに治したいと思ったので来ました」という方が、ほんっっっとに多いです。

「薬で風邪は治せないですし、病院で処方できる薬はすべて症状をおさえるだけの効果しかないですが・・・」と言うと、「そうなんですか?知らなかった!」とけっこうみなさん驚きます。

これに関しては、下記の釣り気味のタイトルの記事に、以前くわしく書きました。

風邪を早く治すためには何科にかかるのが正しいの?

風邪をひいたら早く治したいというのは常に誰もが思うことです。しかし初めに言ってしまいますが、ただの風邪であるならば、早く治すためには安静にして体をやすめるのが一番効果的です。なぜなら風邪のウイルスをやっつける薬というものは存在せず、病院で処方される薬は症状をおさえるためのものだからです。

風邪を早く治そうという方はとても多く、毎回毎回外来で説明していると、そもそも「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解はどこから出てきたのか、とても気になります。

そこで、「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解を生む原因はいったいなんなのか、思い当たることもあったので取り上げてみたいと思います。


風邪薬のCMのキャッチフレーズが誤解をさそっているのでは

まず原因として浮かんだのは、風邪薬のCMです。

具体例としていくつか。まずはメジャーな風邪薬のひとつであるパブロンのCMについて見てみます。

最新のCMでは松嶋菜々子さんを母親役で起用し、親娘の暖かさを前面に出したCMになっています。

このCMの最後に言われる「効いたよね、早めのパブロン」というお馴染みのキャッチフレーズはもはやかなり有名です。

この「効いたよね、早めのパブロン」というキャッチフレーズ、あたかも早めにパブロンを飲むことで風邪が治るかのように聞こえて、薬事法的に大丈夫なのかなぁと思ってしまいます。

パブロンの成分のウリはアンブロキソールとカルボシステインだそうで、これは病院で処方するところのムコソルバンとムコダインのことです。

ムコソルバンもムコダインもいわゆる「痰切り」の薬であって、風邪の原因となるウイルスをやっつける効果はなく、風邪を早く治すデータも存在しません。

好意的に読めば、「効いたよね」の部分は「風邪を直接治さないけれども、風邪の症状をおさえるのに効いたよね」ということなんだと思うのですが、他人事ながらよくかんがてみると、薬事法の広告についての条文の

何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。薬事法第66条より

にひっかからないのか少し心配になるくらいのキャッチフレーズです。

また、ほかの例として風邪薬として有名なルルについても見てみます。

最新のCMでは有村架純さんをCMキャラクターの「ルルちゃん」として起用し、猫がルルちゃんに話しかけるというかわいらしい作りになっています。

決めのキャッチフレーズは「ねつ、のど、はなにルルが効く」です。

これもパブロンのCMと同じく、正確には「ねつ、のど、はなの症状をおさえるのにルルが効く」ということなんだと思うのですが、「ねつ、のど、はなの風邪をルルが治す」とミスリードを誘うように思えます。

ルルの主成分はクレマスチン、ブロムヘキシン、トラネキサム、ベラドンナ総アルカロイドなどだそうで、それぞれ順に病院で処方するところのタベジール、ビソルボン、トランサミンです。ベラドンナ総アルカロイドは抗コリン作用を持つ植物抽出物です。

タベジールはアレルギー症状を抑える抗ヒスタミン薬、ビソルボンは痰切り、トランサミンは抗アレルギー、抗炎症作用をもつ薬です。

いずれも、風邪の原因であるウイルスをやっつける効果はなく、風邪の症状をおさえる効果しかありません。

こういったCMによって、風邪薬は風邪を治すものなのだという誤解が広まり、病院に行ってより強力な処方薬を飲めば風邪が早く治るに違いないと考える人が多くなってしまったのではないでしょうか。

これらはほんの一例ですが、このような風邪薬のCMが、「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解をまねいている原因の一つなのではないかと私は推測します。

一応誤解を避けるためにいっておくと、私はこれらの風邪薬に意味がないといっているわけではなく、ここで伝えたいことは風邪薬は風邪の症状を抑えるための薬であり、風邪の治療薬ではないという点です。

過去の経験のせいで「薬が風邪を治した」と錯覚しているのでは

次に「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解の原因として考えられるのが、「経験による思い込み」です。

過去に風邪をひいて薬を飲んだときに、薬が症状を抑えたために、風邪薬が風邪を治したと錯覚してしまっているのではないかという推測です。

実際に外来の患者さんで、「前に出してくれた薬で風邪が治ったので今回もそれください」という人が多いです。

風邪自体はほうっておけば治るのですが、自然に治っている間に風邪薬を飲んでいると、あたかもその薬が効いて治ったかのように思えてしまいます。

風邪を治したのは自分の免疫が風邪のウイルスを排除したからであり、風邪薬が治したわけではありません。

この場合の誤解をわかりやすく乱暴に言うと、骨折して痛み止めを飲んで、痛くなくなったから骨折が治ったと錯覚しているようなものです。

当然ながら骨折は痛み止めでは治らず、適切な固定や手術ののちに、自然に骨がくっついて治癒するのを待つしかありません。

風邪についても、風邪の原因のほとんどはウイルスであり、風邪のウイルスが自然に自分の免疫で体から排除されるのを待つしかありません。


風邪薬が症状をおさえるだけだとあまり広めたくない人たちがいるのでは

ここから先は私個人の完全な邪推です。いまの医療をあえて悪いほうへ悪いほうへ考えます。

現実的に考えると、医療といえども慈善事業でできるものではなく、病院経営にかかわる人は収益を出さなくてはいけません。

「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解をそのままにしておけば、儲かるからいいじゃないという人たちがいるのではないかという私の勝手な推測です。

「風邪をひいたら病院にいかなきゃ」という考えを、否定する必要もないと考えている医師が、もしかしたら経営にかかわっているような医師の中にはいるのかもしれないと。

よほどの重い病気を持っている人ならば風邪が命にかかわるかもしれませんが、健康な人に「風邪をひいたときは必ず来てくださいね」というようなことをいっている医師がいたら、それは実際どうなのかなぁと思います。

もし、「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解がなかなかなくならない原因の一つに、こういった要素があるのであれば、医師としては残念です。

ただ、これも誤解をさけるために書いておくと、風邪の症状で病院にいってもまったく意味がないといっているわけではないです。

症状がひどくてただの風邪ではないかもしれない、とか、症状が市販の薬ではおさまらずにあまりにつらい、という場合には、病院にいく意味はあると思われます。

私が考える風邪における病院のうまい使い方については、下記にもまとめておりますので、興味のある方は読んでいただけると幸いです。

風邪をひいたらいつどのタイミングで病院にいくべきか

体がだるくて風邪のひきはじめだと思ったので早めに病院に来ましたという方がいらっしゃいます。しかし、実際のところ風邪で早めに病院にいっても病院でしてもらえることは少ないです。むしろ忙しいビジネスマンの方にとっては、風邪のひきはじめに病院にかかるのは時間的に考えてあまり利点があるとは考えられません。

まとめ

「病院に行けば風邪が早く治る」という誤解を生んでいるのは、ここで挙げただけでおも風邪薬のCMやら、過去の経験による思い込みやら、いろいろな要素がありそうに思えます。

個人的にはテレビで見る風邪薬のCMはけっこうな影響力をもっているので、仮に本当に誤解を招いているとすると、なんとかならないもんかなぁと思います。