大病院受診に最低5000円の初診料追加負担で何が変わるか?

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以前取り上げた大病院への紹介状なしの受診に別途追加負担を求める取り決めが、いよいよ現実となるようです。

2016年1月5日付で厚生労働省がこの制度の検討に入ったというニュースが各媒体からながれています。

2016年4月からの運用を目指している段階とのことで、まだ調整段階のようですが、現時点で最終的にどうなりそうなのかをニュースの情報を拾いながら具体的にみてみます。

各報道をみると、いずれも大病院の受診に最低5000円の追加負担がかかるようになる見通しだという記事のタイトルで、一見すると大きな反発を招きそうな書き方です。

すでにインターネット上で、「大病院に自分でかかるだけで迷惑患者あつかいはひどい」、「貧乏人は大きな病院に行くなということか」といった否定的な反応も見受けられます。

限られた医療資源を重症患者に集中させ、一方でプライマリ・ケアレベルでのかかりつけ医制度を確立しようとする国の目的ははっきりしていますし、医療資源の適正使用を誘導することで、拡大する医療費の抑制も視野に入れていると考えられます。

この大病院の初診料問題が、具体的にどのようなところに着地しそうなのか、どのような影響を及ぼすのか、現時点でのニュースから得られる情報から予測しながら考えてみます。


国は最低ライン5000円を設定する方針

以前の2014年4月のニュースでは1万円という金額が報道されて話題になりました。このブログでも取り上げた話題です。

どのような議論がなされているのかはわかりませんが、追加徴収する金額は下方に修正され、厚生労働省は最低ラインを5000円と設定するにとどまるようです。

厚生労働省は、今年4月から紹介状なしで大病院を受診した患者に、初診料とは別に最低5000円の追加負担を求める方針です。

対象となるのは、大学病院や公立病院など全国およそ250の大病院です。厚労省は、今年4月から紹介状なしでこれらの大病院を受診した場合、患者に初診料とは別に追加負担を求めることにしていて、負担額は最低5000円とする方向で調整しています。TBS Newsより引用

初診時の最低額は5千円か1万円とする案が有力だったが、厚労省は初診時に最低5千円とし、病院独自の判断で5千円超も可能とすることを検討。産経ニュースより

より高額に設定するかどうかは、個々の病院の独自の判断にゆだね、国としては金額設定の責任をそれぞれの病院に負わせた形です。

特定機能病院などの専門診療に特化していきたい病院は、おそらく5000円よりも高額に設定することが予想されます。

今現在すでに初診料の追加徴収は行われている

これがどのような影響を及ぼすのかを考える前に、とりあえず今現在がどうなっているのかというのを確認しておきます。

下記のニュースによれば、今現在すでに、紹介状なしで受診した場合に、初診料の追加負担を徴収している病院は存在しています。

新たな仕組みは、今月下旬の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で示される。現在でも200床以上の病院で追加料金を徴収できるが、金額は1000~4000円が多く、徴収していない病院もあり、ばらつきが見られた。厚労省は対象となる病院を絞った上で金額を引き上げ、支払いを義務化することにした。YOMIURI ONLINEより引用

自分の知る限りでも、実際にこのような追加負担を設定している病院はあり、まったくのゼロから急に負担を強いる制度が始まるというわけではありません。

ただ、今回厚生労働省が設定しようとしている金額は最低5000円であり、今現在すでに徴取されている金額よりも数千円高くなる設定ということになります。

また、追加徴収を行っていない大病院に対しては、地域における医療資源の適正使用をめざし、専門的治療とプライマリ・ケアの役割を明確化するために、初診料の徴収を義務化するようです。


国が追加徴収を義務化する病院は限られる

具体的にどれくらいの規模の病院が、この初診料追加負担を導入することになるのかについてですが、

500床以上の大病院が対象になる見通し。救急で受診した場合などは例外となる。身近なかかりつけ医の受診を促すことで、大病院の専門的な治療への集中や、勤務医の負担軽減を実現するのが狙いだ。YOMIURI ONLINEより引用

この金額を設定できる病院は500床以上の規模の病院とのことで、かなり大きな病院に限られるようです。具体的には特定機能病院や公的な総合病院が大部分を占めると思われます。

また、緊急時に救急車で大きな病院に運ばれてしまった場合には、この負担は免除される見通しとのこと。

追加負担を求めるのは、あくまで特別な専門性を有する大病院に、紹介状を持たずに受診した場合に限られるようです。

初診料の追加徴収義務化によってどのような影響が考えられるか

この制度によってどれくらい患者さんが困る事例が出てくるかということを考えてみますが、結論から言うとほとんどないのではないかというのが私の個人的な見解です。

医療者である私がいうと、自分の立ち位置のために初診料の追加負担を擁護しているかのように思われそうですが、実際医療の現場で働いている視点から患者さんの損得を考えてみて、影響はあまりないだろうというのが正直な意見です。

なぜならば、大病院は一般的な一通りの診察、スクリーニングの検査で、さらなる精密検査が必要と考えられる患者さんや、すでに病気が診断された患者さんに対して治療を行うことに特化しています。

多くの大病院で、診療科はそれぞれの専門科に分かれていて、いきなり自己判断で正しい診療科にかかることは、非常に難易度が高くなってしまっています。

間違った診療科にかかって、専門科と専門科の間でたらいまわしになってしまったり、クリニックであればすぐできる可能性がある内視鏡や超音波などの検査の予約がかえって空いていなくて時間がかかったりする可能性もあります。

実際のところ、いまままで気軽にちょっとした症状の相談で大病院を受診している人がいたとしたら、病院側からみればそういった例が医療資源を圧迫していた可能性がありますが、患者さん本人にとっても実はあまり利点はなかった可能性もあります。

初診料の追加徴収義務化の影響は本当に大きいか

自分がかかる適切な診療科が何科なのか、どのような専門科へ行くべきなのかは、一般的なクリニックのレベルでまず相談することが一番適切な選択だと思います。必要があれば専門の病院に紹介してもらえるわけで、クリニックにかかると大病院への受診ができなくなるわけではありません。

最初にどこにかかるべきかは、初診料の追加負担の問題とは関係ありません。たとえ初診料の追加負担がなくても、まず一般的なクリニックで相談するほうが、より適切でスムーズな医療を受けられる可能性があると考えています。

今回のシステムは、大病院受診前に開業のクリニックに利益をもたらすものだという意見もありそうですが、紹介状は保険が適用可能であり、その金額は自費で2500円で3割負担の方は750円となっており、保険を用いれば患者負担はそこまで高額なものではありません。

緊急時の救急車での搬入では追加負担が免除されるようですし、おそらく患者さんにそこまで大きな負担を強いるシステムにはならないと思われます。

まとめ

実際のところ、初診料の追加徴収の義務化によって、患者さんが何かしらの不利を被る可能性はあまりないのではないか、というのが自分の個人的な意見です。

これまでも、大病院に自分で専門科を選んで受診することは、あまり患者さん本人にとっても利益がなかったのではないかと思われます。

おそらく、今後重要になってくるのは、いかにして自分にとってよいかかりつけ医を探すか、なにを基準にしてかかりつけ医を選ぶか、という点だと思います。

国はかかりつけ医をどのように選べばよいかということに関して、もっと地域ごとの詳細な情報が患者さんに届くように整備するべきだと思います。

むしろそのような情報の整備が不十分であるために、患者さんの不安をまねいてるのではないかと思います。

大病院に直接かかることが、はたして本当に安心なのか?かかりにくくなることでどのような影響がでるのかについては、こちらの2014年4月の記事でも考察しています。

現時点での報道を見る限り、「大病院にかかりにくくなるかもしれない」という情報が先行して多くの人の不安をあおっている印象があります。

大病院は重症患者の治療などそれぞれの専門に特化している病院であり、広い分野を総合的に診ることに特化している病院ではありません。「大病院だから安心」という考えは必ずしも正しいとはいえないと考えます。