風邪に抗生剤が効かないのはなぜ?抗生物質が風邪薬とはならない理由


ウイルスと細菌は全然違うというのがミソです

「風邪をひいたので、抗生剤がほしいので来ました」という患者さんがけっこういらっしゃいます。

風邪に抗生剤は効きませんので、処方できないことを伝えると、中には怒ってしまう患者さんもいます。

しかし、抗生剤は風邪に効果がないばかりか、副作用によって有害となる可能性があることもわかっており、患者さんに説明してご納得いただいています。

それでは、なぜ抗生剤が風邪に効かないのか、説明したいと思います。

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そもそも「風邪」ってなに?

そもそも風邪とは何か、ということについてまず見ていきましょう。

風邪という言葉の定義をさがすと、Lancetという有名な医学雑誌に2003年に掲載された「The common cold(英語で風邪の意)」というレビューに、

「風邪とは、軽度の上気道の疾病に対する慣習的な表現であり、鼻づまり、鼻水、くしゃみ、のどの痛み、せきが特徴的な症状として挙げられる。」

と定義されています。簡単にいってしまえば、風邪とはのどや鼻らへんの軽い症状が出てきた状態なわけです。

そしてその原因として、ライノウイルスが30–50%、コロナウイルスが10–15%、インフルエンザウイルスが5–15%、RSウイルスが5%、パラインフルエンザウイルスが5%・・・とウイルスの名前がずらりと並び、最後にウイルスを同定できない例が20-30%となっています。

つまり、風邪の原因のほとんどは「ウイルス」なのです。

「ウイルス」というのは、自分の遺伝子をタンパク質のカラで囲っただけの構造をもつ生物です。「ウイルス」は自分だけでは増殖できないので、ほかの生物の細胞の中に入って増えていく微生物です。

この「ウイルス」が、感染して風邪の症状を引き起こすわけです。ですので、風邪を治すためには感染したウイルスをやっつけなくてはいけません。

では「抗生剤」ってなに?

風邪はほとんどがウイルスによって引き起こされ、治すためにはウイルスをやっつけなくてはいけないとなったところで、それでは抗生剤はどうやって効く薬なのか考えてみます。

そもそも「抗生剤」とは、「抗生物質」ともいい、他の微生物をやっつける化学物質です。主に医療の現場で感染症の治療に使われます。

病院で処方される「抗生剤」のほとんどは、細菌をやっつけるための「抗菌薬」です。「抗菌薬」のなかではアオカビから発見されたペニシリンが有名ですが、今現在でもサワシリンという薬がペニシリン系抗菌薬としてよく処方されています。

細菌はウイルスとは違って、遺伝子を囲む核があって、その外側に細胞膜があって、さらにその外側に細胞壁があって、という細胞の構造をもっています。

細胞とウイルス

サワシリンがどうやって細菌をやっつけるかというと、細菌の細胞膜の外側にある細胞壁という壁を作れないようにするメカニズムを使ってやっつけます。

サワシリンの持つβ-ラクタム骨格という特殊な構造が細胞壁の合成ができないように働くので、サワシリンがあると細菌は増殖しようとした段階で死んでしまいます。

一方、人間の細胞にはそもそも細胞壁は存在しません。ですので、人間の細胞は細胞壁が作れなくなってもまったく困りません。

サワシリンはこの人間と細菌の細胞の違いを利用して、人間の体には影響を与えず、感染した細菌だけをやっつけるのです。

セフェム系の抗菌薬であるフロモックスもよく処方される薬の一つですが、このフロモックスも同じくβ-ラクタム骨格によって細胞壁合成を防いで細菌をやっつけます。

他の例として、クラビットという抗菌薬があります。クラビットは抗菌薬のなかでもニューキノロン系と呼ばれる分類に入り、そのメカニズムはペニシリン系とは少し違います。

クラビットは、細菌が自分のDNAを複製するときに働くDNAジャイレースという酵素を働けないようにして、細菌をやっつけます。

人間にはこのDNAジャイレースという酵素はないので、クラビットは人間の細胞はやっつけずに、細菌だけをやっつけることができるのです。

つまり、これらの抗生剤は、サワシリンにしろフロモックスにしろクラビットにしろ、人間と細菌の細胞の違いをうまく利用して、細菌だけをやっつける薬なのです。

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では抗生剤はウイルスに効く?

さて、話を風邪のウイルスに戻します。風邪の原因のほとんどはウイルスであるという話でした。

ウイルスは、抗生剤のメカニズムの説明で述べてきたような細胞壁もありませんし、DNAジャイレースも持っていません。

そもそもウイルスは細胞を持っていません。自分では増殖できないので、人間に悪さをするときにはウイルスは人間の細胞の中に入り込むのです。

上に挙げたサワシリンやクラビットなどの抗菌薬は、人間の細胞には悪さをしないように設計された薬なので、人間の細胞の中にいるウイルスには手をだせません。

たとえ手をだせたとしても、ウイルスは細胞壁やDNAジャイレースなどの抗菌薬のターゲットを持っていないので、まったく効果がありません。

細胞とウイルス2

一般的に処方されている抗生剤は、風邪のウイルスをやっつけるという目的には、そもそもメカニズムがぜんぜん合っていないのです。

ただし、例外として抗生剤の中でも抗ウイルス薬というものだったら、ウイルスに効きます。たとえばインフルエンザに対するタミフルなどがそれに当たります。

しかし、一般的な風邪のウイルスをやっつけるための抗ウイルス薬というものは、残念ながら現時点では存在しません。

つまり、風邪はほとんどがウイルスによって引き起こされ、治すためには原因となっているウイルスをやっつけなくてはいけないのですが、一般的な抗生剤はウイルスには効かないので、風邪は薬では治せないのです。

風邪を治すためには、無理をしないで過ごして、自分の免疫がウイルスをやっつけてくれるのを待つしかありません。

でも、とりあえず抗生剤のんでおいても悪さはしないでしょ?という人へ

頻度がすくないとはいえ、風邪の症状を示すものの中には、細菌が関わっている場合もあります。

溶連菌や百日咳菌などが原因で、風邪のような症状を起こしているケースもあります。そのようなケースであれば、検査を受けずに抗生剤だけとりあえず飲むというのではなく、しっかり診断された上で、診断に合った治療を受けなくてはいけません。

なぜならば、成人の風邪症状に対して抗生剤を使った場合に、その副作用でむしろ有害な影響がでるという報告がすでに存在しており、単なる風邪症状に対して必要がないのに抗生剤を飲むことは推奨されません。

抗生剤をつかうことで、腸で働いている菌が攻撃されて下痢を起こしたり、薬を分解したり排泄したりする肝臓や腎臓に負担がかかったりする場合があります。

また、抗生剤が効かない細菌が生き残って増えてしまって悪さをすることもあります。いわゆる「耐性菌」と呼ばれる細菌です。

それどころか、たとえばもし風邪症状に結核がかくれていた場合、上のニューキノロン系の抗生剤を飲んでしまうと発見が遅れて重症化することが知られています。

結核は結核菌という細菌によって起こるので、細胞をターゲットとした抗菌薬は効くのですが、きちんと結核に対して決まった治療をしないと治りません。

診断がついていない状態で中途半端に抗生剤が作用すると、治りきらずにより悪くなってしまうのです。

ですので、単なる風邪の症状に抗生剤を飲むというのは、効果がないばかりか悪い影響が起こり得るので、避けたほうがよいのです。

参考文献)
Heikkinen T, Järvinen A.The common cold.Lancet.2003
Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis.Cochrane Database Syst Rev.2013
Wang JY, et al.Thorax 2006
後藤直正,三笠桂一. 抗菌薬の作用機序と耐性機構 インフェクションコントロール.2011