Googleが医療分野を完全に支配しつつあるという話

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近年では多くの患者さんが医療情報をご自分で調べ、インターネットの検索が使われない日はありません。

日本におけるネット検索はGoogleとYahoo!がそのシェアのほとんどを占めており、Yahoo!はGoogleの検索エンジンを使っていることから、実質Google検索における順位づけが、患者さんの手元に届く情報を左右しています。

しかし今日これから書く話は、検索エンジンとはまったく別の話です。今日取り上げる話は、下記のニュースについてです。

顧客の遺伝情報で「医学に革命」 米「23andMe」社、アン・ウォジツキー最高経営責任者に聞く – 毎日新聞


遺伝子検査サービスを展開する企業「23andMe」とは

2016年6月2日付の毎日新聞のニュースで、23andMeという企業を取り上げた記事が上がっていました。

この23andMeという企業は、遺伝子検査を行うサービスを展開しており、その際に顧客のゲノム情報を収集して蓄積してきた企業です。

ところが遺伝子検査にもとづく健康に関する情報の提供に関しては、FDA(アメリカ食品医薬品局)に止められてしまい、本流をせき止められたこのサービスはどうなっていくのか個人的に注目していた企業でもありました。

創業10周年を迎えた「23andMe」は、顧客がインターネットで検査キットを注文する手軽さや破格の料金設定を打ち出し、現在主流となったビジネスモデルを確立。2008年に米タイム誌の年間最優秀発明に選ばれた。だが、米食品医薬品局(FDA)から2年半前、「安全性基準を満たしていない」と指摘され、販売は制限されている。(毎日新聞より引用 )

この企業が大きな注目を集めている理由は、遺伝子情報を用いた企業サービスという未開拓分野を突き進んでいたという点もありますが、毎日新聞の記事で取り上げられている23andMeの創業者がGoogle創業者の元妻であることもその理由の一つでしょう。

23andMeは、2006年、グーグル創業者セルゲイ・ブリン氏の妻で生物学者のアン・ウォイッキ氏とリンダ・アベイ氏、ポール・クセンザ氏によって創設された。人間が持つ23対の染色体が社名の由来だ。(ZUUonlineより引用)

そして23andMeは、実際にGoogleが出資している企業の一つでもあります。

Googleが目指す個人の遺伝子情報と健康情報の統合

このへんの話は以前も取り上げたことがあって、おそらくGoogle側の最終的な目的は、いくつかのサービスを統合することで、健康情報と遺伝子情報を統合することにあると思われます。

Googleは統合したビックデータを医療分野の研究開発に用いると同時に、ユーザーに対してそのデータに基づいて健康に関する助言を行うようなプラットフォームを作ろうとしているのだと考えられます。

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この機会に私たちは自分の健康情報がどれくらい大切なものなのかを考え始めなくてはいけません。なぜならば近い将来、私たちは企業に自分の遺伝子情報をささげなければ生きていけないという未来が来るかもしれないからです。

今回の毎日新聞の記事を見る限り、遺伝子情報の収集は順調に進んでいるようで、そしてさらに医学研究にも役に立ちつつあるとのことで、これらの点に関しては一応は喜ばしいことだといえます。

一方、同社が新たに力を入れるのが、顧客のデータベースを活用した医学研究だ。遺伝情報に加え、生活習慣、視力や病歴なども匿名のデータ化し、大学や製薬企業と共同研究する。120万人の顧客のうち8割が参加に同意し、難病治療など約200の研究に取り組んでいるという。 (毎日新聞より引用) 

ただ、この件に関して常日頃から思うことは、顧客の遺伝子情報が一つの企業に集約して集まることで、情報が漏えいしたときの被害の規模がどんどん大きくなっていることです。


人間が管理する情報は漏れるものだとして扱わなくてはならない

昨今のニュースを眺めれば明らかなように、人間が管理している以上、情報は常に漏れる可能性をもっています。

規模の大きな例を挙げれば、アメリカの最高機密情報がエドワード・スノーデンという一人の人間によって暴露されたように、また最近ではパナマ文書と呼ばれる租税回避行為に関する機密文書が内部の人間の告発と考えられる形で暴露されたように、人が管理する情報が漏れる可能性をゼロにすることはできません。

23andMeが収集している遺伝子情報を解析することで得られる情報は、個人のプライバシーを超えるような重要性をもつ可能性があります。

個人が近い将来どのような病気にかかることが予想されるか、どのような病気にかかりやすいかなど、大きな有用性を持つ情報である一方、その情報が漏れたときにその人が受ける被害は甚大です。

遺伝子情報がほかの個人情報と大きく異なるのは、個人の将来的な健康状態を予測しうるという点です。そのため、遺伝子情報の漏えいにより、就職できない、保険に入れない、という状況が起こりうるのです。

遺伝子情報漏えいに関する社会的整備が必要

もし情報が漏れた場合に誰がどのように責任をとるのか、その法整備、社会的な整備は今の段階では十分とはいえません。

日本での事例では、ベネッセの個人情報漏えいが記憶に新しいですが、

ベネッセお客様本部 事故の概要

登録者およびその子供の名前、性別、生年月日をはじめとした、あらゆる個人情報が漏れたにもかかわらず、その補償は500円の金券で済まされてしまい、すでにこの件は過去のニュースとなっています。

名簿事業者3社に個人情報が漏えいしていることが確認されたお客様に対し、2014年9月中旬よりお詫びとご報告のお手紙の送付を開始しました。またこのお手紙と併せて、ご迷惑をおかけしたお客様に対する弊社からのお詫びの品についても、同時にご案内をさせていただきました。お詫びの品として、500円分の金券(電子マネーギフトまたは全国共通図書カード)をご用意いたしました。(ベネッセお客様本部 事故の概要より引用)

落ち着いて考えてみれば、名前や住所が漏れただけでも悪用されれば凶悪事件に巻き込まれる可能性だってあるわけで、個人情報が漏れることで起こるかもしれない不利益、その潜在的な危険性は、500円では補填しきれるはずもありません。

しかしこのような対応にも関わらず、すでにニュースは忘れられつつあるということを考えると、遺伝子情報の漏洩が起こった場合に社会が対応できるのか不安を感じます。

膨大な遺伝子情報が漏洩し、多くの人間が就職や保険に関して不利益を被った場合、大規模な漏洩であればおそらく一つの企業がそれを補償するのは現実的に不可能です。

また、この問題の怖いところは、個人が遺伝子情報の漏洩によって就職や保険に関して損をしたとしても、そもそもその本人が遺伝子情報の漏洩のせいで損をしたことを知ることができない可能性があることです。

一つの企業が膨大な遺伝子情報をかかえてそれを漏らしてしまったという状況にだれが対応できるのか、遺伝子情報漏えいで個人が被った不利益をだれが補填できるのか、と考えるとまだまだ社会的な整備が不十分なように思えます。