未成年者が一人で病院にかかることは法律上できる?できない?

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親御さんと一緒に病院に来た未成年の患者さんのケースで、親御さんは診察室の中には入らずに外で待っていて、未成年の患者さんが一人で診察室に入ってくることが多くて気になっています。

未成年といっても18歳、19歳といった年齢であれば、診察室に親がついてくることは恥ずかしいように思うこともあるのかもしれません。

また、親御さんのほうも、もうほぼ成人といっていいような年齢の子の診察についていく必要はないと思われているのでしょう。

そもそも未成年者は一人で病院を受診してはいけないのか?という疑問がまず浮かびますが、結論からいってしまうと、受診しても法律上は問題になることはないようです。

しかし、私は患者さんが未成年者である場合、必ず親御さんに一緒に診察室に入ってもらうようにしています。

ここでは未成年者が一人で病院を受診することについて、法律上の扱いと実際のところを説明していきたいと思います。

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法律上は医療行為は事務扱い?

まず未成年者の受診について考えるにあたり、医療における医師または医療機関と患者の法律上の関係はどうなっているのか見てみましょう。

厚生労働省の「医療機関の未収金問題に関する検討会」の資料の中に、「保険診療契約について」という医療行為の契約について説明した資料があります。

この中で保険診療契約について、3通りの説が記載されています。

一つ目は、保険診療における医療契約は医療機関と患者のあいだの「準委任契約」という「法律行為でない事務」を委託する契約であると書かれており、この考え方が判例・通説に沿ったもののようです。

二つ目は、保険者である国と医療機関が「第三者(患者)のためにする契約」を結んでいて、患者と医療機関との間には「私法上の契約」が存在しているというもの。

三つ目は、患者は保健医療を受ける場合には、医療機関と何らかの契約をしているというわけではなく、保険者である国と診療契約を結んでいるという考え方です。

法律用語が多くてなにやら難しいですが、医療契約が法律上どのような扱いになるのか?という点については、いくつか説があってそれぞれ判例もあるということと、一般的には医療契約は医療機関と患者のあいだの「準委任契約」であると扱われていることがわかります。

「準委任契約」とは民法656条で規定され、「法律行為でない事務を委託する契約」になります。医療行為というのは法律上事務扱いというのはなかなか興味深いところです。

未成年者は一人で医療契約をしてはいけない?

さて、次に未成年者の受診について見てみます。

未成年者が一人で病院を受診できるか?という問題は、上の通説を用いると「準委任契約」を未成年者が一人で結ぶことが可能なのか、という問題だと理解できます。

そこで「未成年者の契約」について、一般的な法律上の扱いを見てみます。

民法では、20歳以上が成年とされ(民法4条)、未成年者は「制限行為能力者」として単独で有効に契約を締結することはできません。すなわち未成年者は、その法定代理人の同意を得なければ単独で有効に契約をすることができません(5条1項)。法定代理人の同意を得ないで締結した契約は取り消すことができるものとされています(5条2項)。

高木篤夫(弁護士)知っておきたい 未成年者契約の取消し 国民生活 2015- 国民生活センターより引用

つまり、通常は未成年者の契約は、法定代理人(親権者)の同意がないと、法律上は有効なものとはならず、後になって取り消すことができてしまいます。

そうなると、医療契約は「準委任契約」という法律上の契約の一つであるとするならば、未成年者が単独で医療契約を結んでも、取り消すことができる不安定な契約となってしまいます。

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未成年者でも法律上は一人で病院を受診できる

ここまでの情報をまとめると、「未成年者が一人で病院に行って、検査や治療を受ける予約をしたり、実際に薬をもらったり治療を受けたりしても、その医療契約は取り消すことができる」ということになってしまいます。

18歳、19歳ともなれば、親元を離れて一人暮らしをされている方も多いはずで、そのような方が風邪をひいた場合に一人で病院にかかることが法律上できないのでは大変困ります。

実際のところ一人で受診した経験のある未成年の方も多いはずで、そのたびに医者が罰せられているという話は聞いたことがありません。

そこで、未成年者の受診に関してもう少し深く調べてみると、25年前の文献ですが、下記のような記述を見つけました。

患者が行為能力は有しないが、意思能力を有するもの(十二、三歳から二〇歳未満までの意思能力のある未成年者)である場合には、誰が医療契約の当事者になるか。親権者等の法定代理人が同行した場合には、その者が「代理人」として契約当事者になる。患者が単独で診療を求めている場合には「本人」が契約当事者となる。

未成年者が単独で医療契約をした場合に、後でその契約の取消(民法四条二項)を認められるかが問題となるが、医療契約は一般の財産取引とは異なるので、その取消はできないものと解すべきであろう。

もし、取り消しうるものとした場合に、親権者から受診するように指示されたときには法定代理人の同意のある法律行為(民法四条一項)に当たり、親権者と別居している未成年者については処分を許された財産の処分(民法五条)に当たるものと解することができよう。

菅野耕毅 医療契約の法理 医事学研究 1991より引用

つまりこの文献では、「医療の契約は普通の取り引きとは違うので、未成年者であっても、医療に関する契約であれば取り消すことができないものと考えましょう」と述べています。

また、未成年が契約を結ぶことがまったくできないのかというとそういうわけでもなく、例えば親からもらったお年玉で何かを買うということは問題ないわけです。これを「処分を許された財産の処分」と呼びます。

上の文献では、「未成年者の医療契約の取り消しについて考える場合には、「処分を許された財産の処分」として取り消せるかどうか考えましょう」となっています。(勝手に高額な美容形成手術を予約したみたいな場合に取り消しがあり得るようです。)

つまり、未成年者が単独で行った医療契約が取り消しになることは絶対にないとは明言していませんが、基本的には意思能力を持っている未成年者が一人で病院を受診しても、法律上は問題とすることはないようです。

医療者側としては未成年者には親のつきそいをお願いしている

それでは実際のところ、医療の現場で未成年者単独の受診の受け入れがどのようになっているか見てみます。

ざっと調べてみただけですが、多く病院のホームページで、未成年者の受診に関する記述があります。

そしてそのほとんどで、病院側は患者さんに向けて、未成年者の場合にはなるべく親権者のつきそいを「お願い」しています。

また、先ほどの文献の記載はあくまで法律の解釈についての記述であり、法律通りに未成年者の契約は取り消しうるという考えのもとに、未成年者の単独受診はお断りしていますと書いてあるクリニックも中にはあります。(このへんについて、医師の応招義務との兼ね合いがどうなっているのかはよくわかりません。)

近年ではモンスターペアレントと呼ばれるような方々の問題もあり、多くの病院が未成年者の単独受診には神経質になっています。

これまで何度も受診していて、診察を受けていつもの薬をもらうだけという状態であれば、未成年者一人であっても問題はないでしょう。

しかし、法律上未成年者が一人で受診しても大丈夫だとはいえ、実際の医療行為では治療や処置に関して親権者の同意書が必要だったり、入院の保証人が必要になったり、手続きが未成年者一人では難しいケースが多々あります。

さらに、これは自分の経験ですが、初診で一人で診察室に入ってきた10代後半くらいの患者さんに問診をすると、ご本人の小さいころかかった病気やアレルギーなどの情報が不十分なことが多々あります。

一緒に来ている親御さんに確認してようやく必要な情報がきちんと集まるというケースが多く、患者さんにもよると思うのですがやはり可能であれば親御さんが一緒にいてくれたほうが、医療者側としては助かります。

きちんと医師に情報を伝えられるかどうか、ということは患者さん本人が受けられる医療の質にかかわることですので、親御さんがついていくことは重要です。

また、こちらから患者さんに病気の説明をした際に、患者さん本人を通して親御さんに伝わると、説明した内容が親御さんに100%全部正確に伝わる可能性は低くなります。

この問題は未成年者に限ったことではありませんが、伝言ゲームで情報を伝えると、最終的に伝わる情報が足りなかったり、間違って伝わってしまったりすることは容易に起こります。

ご家族みんなで病気や怪我に関する情報を共有するという点からも、親御さんの付き添いは大切なのです。

まとめ

医療契約に関しては扱いが通常の法律上の契約とはすこし異なるようで、意思能力があると判断されれば、未成年者の単独受診が法律上の問題になることはないようです。

しかし実際のところ、場合によっては未成年者の単独受診時に、親権者がつきそって行うべき手続きが必要になることが多々あります。

また、患者さんの情報をくまなく医師側に伝え、医師から得た病気や怪我に関する情報を家族で正しく共有するためには、親御さんの付き添いは非常に大事です。

ただし、親御さんの付き添いは法律で義務付けられているものではなく、あくまで病院から患者さんへの「お願い」です。

年頃のお子さんをお持ちの方は上記を考慮されたうえで、お子さんを一人で病院にいかせるかどうかをご検討いただければと思います。仮に付き添っていただいても過保護だなんて思われることはありませんのでご安心ください。

一人で受診するかどうか迷っている未成年者の方は、「可能であれば親と一緒に病院に行ったほうがいいことが多い」とご理解いただいたうえで、どうするかを考えていただければと思います。