最良の医療か悪しき伝統か|完全主治医制があなたにもたらすもの

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主治医制というものをご存知でしょうか。また、主治医制が病院や診療科によって異なることをご存知でしょうか。

主治医制とは主治医がどういった形で患者さんを受け持つかというシステムの形態を指します。

「入院したら外来主治医が自分の担当医になってくれずに別の医師が担当になった」というケースがあるかと思いますが、こういった主治医制の背景には現在の日本が抱えている大きな問題が隠れています。

ここでは入院や外来での「完全主治医制」と「複数主治医制」のそれぞれの利点、欠点について考え、今後の日本の医療における主治医制はどうあるべきかについて考察していきたいと思います。


入院時における「完全主治医制」と「複数主治医制

まず入院において用いられる「主治医制」について説明します。

入院における主治医制は、大きく分けて入院した際に一人の主治医が常にあなたの対応してくれる「完全主治医制と、複数の医師がチームで担当する「複数主治医制があります。

別の言い方では完全主治医制のことを一人主治医制個人主治医制といったりもします。また、複数主治医制チーム主治医制分担主治医制と呼ばれたりします。

アメリカでは入院時に「複数主治医制」で複数の医師が一人の患者さんを担当し、医師の勤務外の時間を確保しているのが一般的です。

一方日本では、伝統的に入院における「完全主治医制」が多かったですが、最近では病院や診療科によって、「完全主治医制」と「複数主治医制」がまちまちです。

入院における「完全主治医制」の利点と欠点

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「完全主治医制」はその名のとおり、一人の患者さんに対する対応が完全に一人の医師に委ねられるシステムです。

患者さんのことを一番理解している医師が常に対応するという点で、提供される医療の質としては確かに高いものが期待できそうに思えてしまいます。

しかし、医師は帰宅後や休日に呼び出されることが頻回となり、365日24時間病院に拘束されていることになります。

そのために医師が疲弊し、結果として提供する医療の質を高く保つことが難しくなることが問題です。

実際に、現在でも完全主治医制となっている病院は多いです。

さすがに医師も休暇を取ることもありますが、1年の中で1週間や2週間というケースもあり、しかもその休暇期間中はその病院に残っているほかの医師への負担がさらに増えるわけです。

現実にはどの病院も夜間に当直医がいるわけですが、一部の緊急対応を除いては主治医に電話で連絡がいくケースが多いです。

完全主治医制は責任の所在が明確であることと、常に一人の医師が対応することで患者さんへの個々の対応はスムーズになるように思えるのですが、その分医師の疲弊による医療の質の低下が懸念されます。

それでも完全主治医制での質の高い医療を成り立たせようとするのであれば、看護師などのコメディカルスタッフの人員を多くして主治医の負担を極力減らすことが必要と考えられます。

しかし、十分に人員を確保できている病院は少なく医師も看護師も負担も大きくなっているのが実際のところではないかと思います。


入院における「複数主治医制」の利点と欠点

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つぎに、「複数主治医制」は、患者さんに対してチームで対応するシステムで、複数の医師が一人の患者さんのことを把握し、何かあった場合に担当時間内の医師が対応するというものです。

そもそも「複数主治医制」を成り立たせるためには、チームを組むだけの十分な医師数が必要となります。

「複数主治医制」では、提供する医療の質を保つには複数の医師が患者さんのことを把握している必要があり、その結果医師一人あたりが把握しなければいけない患者さんの数というのは完全主治医制に比べて多くなります。

また、担当時間の交代時に情報の共有や引き継ぎをしっかり行う必要がありますが、担当時間の交代時にすべての情報を完璧に引き継ぐのはなかなか難しいという問題もあります。

「複数主治医制」は医師が病院に拘束されない時間を確保することができ、医師の疲弊を防ぐことができる反面、十分な数の医師の確保が前提として必要である上、医療の高い質を保つためには情報の共有に多くの力を注がなくてはいけません。

ちなみに大学病院などでよく見る、専門医、上級医、研修医というチーム医療は責任の所在は結局上についている一人に集約されるので、これは狭義には「複数主治医制」とは少し異なります。

なぜならば下の医師が対応できないときには結局365日24時間、患者さんに対して責任を負うのは一番上の医師ということになるので、広義の「完全主治医制」という言い方が近いのではないかと考えられます。

外来と入院をまたぐ「完全主治医制」と「複数主治医制

また、外来主治医がどこまで患者さんを担当するかという意味でも主治医制という言葉が用いられます。

外来で担当している医師が入院後もそのまま受け持つのであれば、外来と入院をまたぐ「完全主治医制」といえます。

一方で外来で担当している医師と入院した時の担当医師が異なる「複数主治医制」というものがあります。この場合外来と入院で主治医が二人いることになるので、「二人主治医制」と言われることもあります。

この外来と入院で主治医が異なるシステムは、外来主治医が入院患者をもともと担当しないとなっているケースで見受けられます。

大学病院や大きな総合病院などで年配の医師などは入院患者さんを担当しないケースが多いので、必然的に入院時には担当医が変わることになります。

また、大きな病院でなくても、外来主治医が非常勤で外来の仕事のみをやっている場合はやはり入院時に別の医師が担当することになります。

また、普段通っている開業医を外来主治医、入院時の別の病院の医師を入院主治医として捉えて「複数主治医制」といったり「二人主治医制」ということもあります。

外来と入院をまたぐ「主治医制」の利点と欠点

外来と入院での「完全主治医制」と「複数主治医制」においても、入院のときと同じことが言えます。

「完全主治医制」では、ほかの医師との情報の共有にかかる労力が少なく、患者さんにとって同じ医師がずっと診てくれるという安心感があります。

一方で外来主治医がそのまま入院中も対応するため、主治医の負担は大きくなり、医師の疲弊をまねく可能性があります。

「複数主治医制」では外来業務と入院業務が完全に分業されているため、医師の負担は軽減されますが、情報の共有が難しいという点があります。

「完全主治医制」と「複数主治医制」はどちらがよいのか

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これらの「完全主治医制」か「複数主治医制」かというのは、長い通院や頻回の入院の経験のある患者さんでも、いろいろな病院にかからないとその利点と欠点を目にする機会があまりないため、世間でもあまり取り上げられてこなかった経緯があります。

そして現在の日本社会において、完全主治医制」がその利点を生かして高い医療レベルを保つことに貢献しているかというと、一概にそうは言えないと考えます。

患者さんからすればいつでも自分のことをよく知ってくれている主治医が対応してくれる方が安心であることは間違いありません。

しかし安心を得るために完全主治医制」を求めつづけることで、かえって医療者の疲弊をまねき、良質な医療を受けられないという可能性があります。

現在の日本では、少ない医療資源のなかで「完全主治医制」なんとか保っているという状況であるため、現実には医師の疲弊によって、その結果看護師などのコメディカルの負担も増えており、医療者がより負担の少ない職場へと流出しています。

そのような中で「完全主治医制」に固執することで、医療の質が保てなくなり、結果医療ミスの増加や医療訴訟の増加にもつながりかねません。

近年では全体として「複数主治医制」への移行をすすめる方向にはなってきているようです。

また、その一方で今の日本では「複数主治医制」がしっかりと確立できている病院がまだまだ少ないのも確かです。伝統的に「完全主治医制」が根付いてきたため、医師の就業形態や情報共有のシステムなどの確立したものが少ないのです。

「複数主治医制」を根付かせるためには日本の医療の文化と社会システム上、まだまだ超えるべき壁があるというのが現状です。

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まとめ

「完全主治医制」と「複数主治医制」はそれぞれ利点と欠点があり、また現在の日本の医療においてこの制度の選択自体が問題を抱えている状況です。

「入院しても外来主治医が担当してくれなかった」というケースでは、背景にそれぞれの制度の利点と欠点を踏まえた上での良質な医療を目的とした選択があるということを知っていただければと思います。