なぜ「腹痛科」とか「腰痛科」みたいな症状別に診る科はないの?
あまり病気にかかる経験がない若い方とか、インターネットなどを使う機会のない高齢の方にとって、適切な病院にかかるということはなかなか難しいことだと思います。
そういった病院にかかることを難しくしている要因の一つに、症状別に診てくれる診療科というものが存在しないことが挙げられます。
現在のシステムでは、法律で標榜できる診療科の名前が決まっているわけですが、そもそも病気別に診療科というものが分かれているという問題点があります。
症状別か病気別かってどういうこと?
例えば、腰痛という症状で考えてみましょう。 多くの腰痛の原因は腰の筋肉や骨の問題であり、そういった要因からくる腰痛を診療するのは整形外科になります。
しかし、腰痛の原因が腎臓の結石であれば泌尿器科になりますし、大動脈解離という大動脈の壁が裂けてしまう病気は循環器内科または血管外科が診療します。
このように、診療科というものは病気別によって細かく分かれている現状があります。
いや症状別に診てくれるところも既にあるんじゃない?
中には、頭痛外来とか、認知症外来などのように、ある程度決まった症状を診療する科もあります。
しかし、これらの診療科においても、例えば頭痛で脳腫瘍が見つかれば脳神経外科にかかっていただくことになりますし、必ずしもその診療科の中で完結するというわけではありません。
結局のところ、医師は特定の分野の病気の治療に特化するべくトレーニングを受けていくわけで、その結果診療科というものは特定の病気の治療を扱う範囲で分けられます。
症状別に診てくれるようにはできないの?
患者さんからすれば診療科が症状別に分かれていて、腰痛だったら腰痛科、腹痛だったら腹痛科のように分かれていた方が、はるかにかかりやすいはずです。
前述のような、それぞれの医師が専門に特化するトレーニングを受けていく現在のシステムだと、症状別に診るという診療科を作るのはなかなか難しいでしょう。
現行のシステムで高度な専門性を追求している反面、患者さんのための医療といいながら、システムの根底は医者の都合に基づいているではないかといわれると、何も言い返せない現状があります。
また、実際に症状別にということになると、例えば消化器内科は、腹痛科、下痢科、便秘科、血便科、胃痛科、胃もたれ科、吐き気科・・・みたいなことになります。
症状というものの種類が多様で、かつ一つの症状であっても多くの病気が考えられるため、病気の分野ごとに分けられているというのが現状です。
病院受診の難易度を下げる総合診療科
近年、日本においても総合診療科を整備するべきだという意見が広まっています。 今後、日本で総合診療科というものが広まっていくと、まず患者さんは総合診療科で何科にかかるべきか判断してもらい、その後に専門診療科にかかるということになります。
何科にかかるか自分で判断する必要がなくなり、とりあえず総合診療科に相談すればよいというこのシステムの方が、わかりやすいのは間違いありません。
一方で現状では、いわゆる一般内科や開業クリニックの医師がこの役割を担っているのですが、患者さんも医者もその役割にあまり焦点をあてていないように感じます。
患者さん自身も、まず何科にかかればよいのかわからないという時点で病院にかからず過ごしてしまう方もいらっしゃいます。 こういった患者さんを減らすためにも、病院にかかりやすいシステムというものは重要だと思っています。
海外では家庭医というシステムが確立している
実は、日本では一般的ではないのですが、アメリカを始めとした海外の医療においては、既に家庭医というシステムが確立しています。
患者さんは何か困った症状があったら家庭医に相談し、必要があれば適切な診療科を紹介してもらうという流れになっています。
アメリカでは多くの大学で家庭医科というものが、その独自の専門性を認められて確立しており、家庭医科の教授というポストも存在しています。
ところが日本で家庭医科の教授の先生という人を、私は現在までに聞いたことがありません。 日本では現在のところ、家庭医科のような概念を持った診療を行う医師は非常に少なく、その重要性が広まっていないのが実情です。
まとめ
実際のところ、わからなければ近くの病院でまず気軽に相談できるという体制を広めていく必要があるのではと思っています。
また、内科の医師側がもっと総合診療に興味をもつ必要もあると考えています。
日本の医療において、患者さんがもっと病院にかかりやすいシステムを作っていくことが求められていると思います。